色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 さて。
 家に入って。
 まずは、台所へ行って水を飲もうと思った。
 電気もガスもないこの国で、上手く生活できていたのはバニラのお陰だった。
 がらんとした台所へ行ってグラスに水を注いで一気飲みした後。
 はて、ご飯をどう作るか…と考えたとき何も浮かばなかった。

 自慢じゃないが、私は学校の授業で料理を作ったことがあるくらいで。
 人生において料理を作ったことがない…。
 火をどうやっておこすかも知らない。

 テーブルに置いてある果物をみて。
 とりあえず、お腹がすいたら果物を食べようと思った。
 うん、人間食べなくても何日は生きていけるはずだっ!

「とりあえず、ピアノの練習でもするか」

 今日はルピナス様のレッスン日じゃないので。
 だらだらピアノを弾き続けるとしよう。

 ピアノのある部屋に行こうとすると。
「マヒル様、国家騎士団です」
 と野太い男の声がして。
 嫌な予感がしながらも玄関のドアを開けると。
 にっこりと笑った見覚えのある男が立っているではないか。

「太陽夫人、急で申し訳ないけど。ローズがお呼びだって」

 この男と会うのは何回目になるのだろう?
 175cmほどの長身であり、
 国王ほどではないけどイケメンであり、国家騎士団で中立的立場だという。
 クリス様が立っていた。

 クリス様は国家騎士団の中でも身分の高い人だそうで。
 何度か私と王族との面会をする際に案内してくれる人間だ。

「…支度をするので、少々お待ちください」
 私は力なく答えて。
 自室へと、引っ込んだ。
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