色褪せて、着色して。~沈丁花編~

ヨビダシ

 馬車の中では終始、クリス様は喋らなかった。
 普段は世間話するくせに、黙っているということは。
 相当、重たい話になるに違いないと感じた。

 だいたい、王家から呼び出しをくらうときって。
 たいてい、クレームをいれられる時だけなのだから。

 てっきり宮殿のほうに向かうのかと思いきや。
 馬車は見当違いのほうに進んで行った。
 止まって、クリス様の手を借りて馬車を降りたときに気づいた。
「お城…で会うんですか?」
 とクリス様の顔を見た。
 センター分けのショートヘアに。
 整った顔は誰もが見ても、「ぎゃー」と悲鳴をあげるくらいカッコイイ。
 だが、この方はサクラ様という、とんでもないくらい嫉妬深い婚約者がいるので。
 デレデレするわけにはいかなかった。

 クリス様がカッコいいのはさておき。
 重い気持ちが、更に重たくなったのは。
 扉の前で。
 クリス様の言った言葉だった。
「この先には、国王との謁見の間というのがあって。とりあえずしゃがんで。頭をさげてほしい。そんで、国王と王妃が来るとラッパが吹かれるから。国王がいいよって言うまで頭はさげてね」
「…え」
 今まで、私はそんな堅苦しい訪問をしたことがなかった。
 言われるがまま。
 謁見の間という部屋に入ると。
 訳が分からぬまま、座り込む形で。
 頭を下げた。
 …なんで、こんなことしなきゃいけないのか。
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