色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 大理石で出来た床はひんやりと心地よく。
 やがて、ざわざわと人が入ってくるのがわかった。
 頭を下げた状態は想像以上に辛くて。
 首痛い…と思っていると。
 ようやく、ラッパの音がして。
「国王・王妃のおなーりー」
 という若い男性の声が響いた。

「頭を上げよ。太陽夫人」

 ローズ様の声に、私はゆっくりと頭をあげる。
 目の前には階段があって。
 その奥の方に王座があり。
 国王と王妃がさげすむような目でこっちを見ているではないか。

 室内の両端には、ずらりと国家騎士団の人間が並んでいる。
 王座にいるローズ様は。
 自分の知るローズ様とは、違った。
 国家騎士団の制服を着たニコニコ笑うローズ様とは違って。
 王冠を頭にのせて、全身白色の王様らしい格好をしている。
 白いパンツに、白いジャケットには金色の刺繍がほどこしてあって。
 鋭い目でこっちを見ている。
 対して、王妃は赤色のドレスを着て口元を扇子で隠している。

「太陽夫人には、国内で起きている、ある事件の捜査に協力してもらう」
「へ?」

 ローズ様は立ち上がると。
「聴け!」
 と叫んだ。
 端っこに立っていた騎士たちが「は!」と言ってローズ様のほうへ身体を向ける。
「近頃、我が国では他国から幼い少女を買い付け、娼婦まがいのことをさせている悪人がいると聞く。その悪人をいつまでたっても捕まえられない。いつまでも、いつまでも」
 そう言うと騎士たちは(こうべ)を垂らした。
 がくっと落ち込むような仕草だった。
「そこで、我はそなたに潜入捜査をしてもらいたい」
 ローズ様はそう言うと。
 私を見た。
「貴女は娼婦として、悪人のもとへ潜入してもらいたい」

 何を言っているんだろう。
 その時ばかりは、ローズ様の言うことが。
 何一つ理解できなかった。
 ただ、視界に入ったのは。
 多分、私を見て笑っているとしか思えない王妃様の表情だった。
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