色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 国王が自分の寵姫に「娼婦になれ」と命じた。

 そんな噂は一気に国家騎士団の中で広まった。
 未だ、ローズ様の言うことが理解出来ないまま。
 私は応接間へと案内されて。
 ぼーと座っていた。

 何度、思い返しても。
 ローズ様の言うことの意味がわからなかった。
 …じわじわと混乱していると。
 ドアのノック音がして、重たい空気をぷんぷんとさせた2人の騎士が入ってきた。
 一人は私を案内してくれたクリス様。
 馬車に乗っているときよりも、落ち込んだ表情で目の前に立つ。
 注目すべきは、騎士団の上着を脱いで、白いシャツ1枚にボタンを3つほどはずして胸をはだけさせている男だ。
 年は30代後半だろうか。
 クリス様が遠慮している…というのが見てわかる。
 ということは、それなりに偉い人だってことだ。
 胸ははだけているし、騎士で長髪の人を見たことはなかった。
 涼し気な切れ目に焦げ茶色の瞳。
 20代くらいの頃は、チャラかったのかしら…と思うと同時に。
 いや、もしかしたら今もチャラいのかもしれないと感じた。
「えっと…、こちらはファスト様。今回の計画を説明してくれます」
 ぎこちない声でクリス様が説明してくれる。
 ファスト様という男性は、真正面に立って。
 私をじぃーと凝視して。
 どすんと音をたてて座った。
「困ったことになったね」
 立ち上がった私に「お座りになってください」とクリスさんが言ったので。
 すぐに座る。
 正直、ずっと立っている自信がなかった。

 ファスト様はずっと私の顔を見ている。
 この国の男性がじろじろ見てくるのは、私が外国人で珍しいからだと思っていたけど。
 どうやら、それだけじゃないらしい。
 私は、国で一番美女だからだ。
 私は疲れていたけど、サービスでファスト様に微笑んであげた。
 ファスト様はわかりやすいように「おっ」と声を漏らす。
「こんな美しい姫君にねえ」
 と、独り言のようにファスト様が言ったので。
 クリス様は「ごほん」とわざと咳をした。
 クリス様は青ざめた顔で私を見ている。
「俺が言うのも変だけど。どうか…ローズの立場をわかってほしい」
「……」
 わかってはいるけど。
 私は肯定も、否定も口にしなかった。
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