色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 アテンドさんが案内してくれた目先には。
 これから入国審査を受けるであろう集団がいたので。
 上手く紛れ込んだ。

 荷物を受け取って。
 書類をカウンターに提出すると。
 名前を見た所員の男性が、すぐに後ろのテーブルで作業していた若い男性を呼んだ。
 呼ばれた男性は走ってこっちにやってくると。
 書類を見て一人勝手に頷いて「俺の客」と小声で言った。
「エアーさん。外に案内人がいますから。一番右の出口から出て待っていてください」
 流暢な外国語で男が言ったので。
 にっこりと笑ってお礼を述べた。

 海外からやってきた、エアーという女。
 皮肉にもかつて、私が別人として生きたエアー夫人と同じ名前という設定。
 リゾートドレスとでも言えばいいのだろうか。
 派手なオレンジ色の生地に花柄という…この国では浮いていそうな服装で。
 ぶかぶかの麦わら帽子をかぶって。
 スーツケースをがらがら言わせながら。
 外に出る。
 目の前は道路。
 その奥は砂漠。
 空港からは迎えが来てくれる人達が多いようで。
 個々で車に乗って移動しているようだ。

 緊張しながらも。
 この時、逃げちゃえばいいのかなと思った。
 といっても、逃げる場所なんてないか…。

 見た目が派手で美人なのに。
 私はいざというとき。
 本当に憶病だ。
「ヘイッ! あんたが、エアー?」
 名前を呼ばれ。
 声のするほうを振り返ると。
「えっ」と声を漏らしてしまった。
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