色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 車内という狭い空間で。
 得体の知れない薬を飲むことを強要してくる。
「これ飲んだら、あっというまに目的地よ」
 2人はニヤニヤしながら身振り手振り説明する。

 手のひらの錠剤を見て。
 もう、オワッタ…と観念する。
 絶対にまともなモノじゃない。
 毒…毒?
 毒ではないにしたって。飲んじゃいけないやつ・・・ヤバいやつでしょ、コレ。

 ニヤニヤしていたトペニは急に真顔になる。
「これが飲めないなら。俺達を信用できないってことになる。これが試験みたいなもんだよ。どうする? 自分で飲むか俺が無理矢理飲ますか」
(飲むしか選択肢ないのかよー)
 信用も何も。
 意味わかんない薬を飲めっていうほうが無理に決まってるだろうが。
 なんの拷問だよ。
「し、シナナイ? ドク?」
「毒なわけないっしょー。あんたはこれから金稼いで国の家族に仕送りするっていう目標があるんだろ」
 いや、どういう設定になってんの!?

 パニックになったけど。
 もう飲むしか選択肢がなかった。
 プツンと切れた糸は。
 極限の緊張を通り越して。
 錠剤を口に入れて飲んでしまった。
「はい。これ水。車動かして―」
「おうっ」
 ごくりと飲み込んで。
 トペニがくれた瓶に入った水をごくごくと飲んだが。
 何の変化もなかった。
「目的地までまだかかるから。寝てていいぞ。エアー」
 そう言われると。
 不思議とまぶたが重たくなってきた。

 次第に意識が朦朧として。
 やっぱりあの薬ヤバいやつだったんだなと気づいた。
「いやー。今回は上玉だな。年齢的にも外見もパーフェクトっしょ」
 うとうとし始めると。
 車が一気に加速するのを感じた。
「ここんとこガキどもばっかだったからなー。神経すり減らさずに済む」
 声の主はロケットか。
 こっちがまどろんだかと思えば、世間話をしているらしい。
 半分は眠っていたけど。
 まだ意識は残っていて2人の会話が耳に入った。
「そんなこと言っちゃってー。ロケットさんは子供大好きなんだから」
「あのね。小さい女の子っていうのはデリケートなのよ。俺らのふるまい一つで一生トラウマになるんだからね」
「はいはい。ほんとマジメだねー」
「真面目? 真面目ならこんな裏組織的なところで働いてませえーん」
 と、ロケットがおどけたところで完全に意識を失った。
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