色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 意識を失ったところで。
 薬を渡してきたイケメンが誰に似ていたのか気づいた。
 マリアちゃんだ…

 国家騎士団肉体班所属。
 太陽様より先輩だけれど、階級は太陽様にとっくに越されて。
 日々、門番とパトロールの仕事を与えられている人だ。
 名前も女の子みたいだけれど。
 顔も女性的で騎士としては小柄な人だ。
 いつも、ジョイというお笑い芸人のような面白い人とコンビで仕事をしている。

 最近、昇進したんだかなんだかで。
 めっきり顔を合わせることがなくなってしまった。
 そのせいか、トペニを見てすぐにマリアちゃんを連想できなかったのかもしれない。

 錠剤を飲んで、すべて終わったと・・・悟ると。
 肩の荷が下りた気がした。
 今まで本当に色んな事がありすぎて。
 疲れ果てていたのは事実。
 海底へと・・・沈んで、深く深く潜っていく。
 不思議な気持ちだった。

 目の前には見覚えのある礼拝堂がある。
 実家を抜け出して。
 礼拝堂に入ると。
 テイリーの姿はなかった。
 私は泣いた。
 声をあげて泣いてやった。

 助けて…と叫んだところで。
 自分の居場所なんてないし。
 誰も助けてくれない。
 救いのヒーローは一人だっていない。
 絶望で。
 …絶望の中で一人。
 生きて、死んでいくんだという。
 どうしようもない感情だけが涙になっていた。

「おい、エアー。目的地だ」
< 28 / 74 >

この作品をシェア

pagetop