色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 聴き慣れない声にビクッと身体を震わせる。
 目を覚ますと誰かに寄りかかって寝ていて。
 視線を上にすると、ニカッと白い歯を浮かべたトペニがいる。
「ひっ」と悲鳴を上げて飛び跳ねると、ゴンッと鈍い音を立てて頭をぶつける。

「ま、初対面で俺に寄りかかって寝ちまうんだから。大丈夫だな」
 と言ってトペニはなれなれしく私の肩をポンポンと叩いた。

 ぼんやりとしていたけど。
 あ、生きている…という安心感が強かった。
 同時に身体に異変がないか目視して。
 なんかされてないだろうなと身体をペタペタと頭から順番に触った。

「おい、出ろ」
 運転席にいたロケットが怒ったような声で言ったので。
 私は慌てて車から降りた。
 気づけば、夕日が容赦なく自分に当たる。
「まぶしっ」と言っている間に隣にすぐトペニが立った。
 ロケットが運転する車は勢いよく走りだしてどこかへ行ってしまった。
「ついてきな」
 と言って、トペニがいきなり手を掴んできたので。
「はああ!?」
 と悲鳴をあげる。
 だが、トペニは私のことを無視して。
 目の前にある建物に入っていく。
 入口に見えた看板にあるのはホテルの文字。
 入るとすぐにロビーが目に入った。
 ゆったりとしたソファーに奥の方からピアノの演奏。
 カウンターに立っていた中年の男性に「よっ」とトペニは目くばせする。
 男性は頷いて、顎をくいっと左に向けた。
 トペニは速足で。
 奥へと進んで行く。
 従業員専用のドアを開けると。
 まっすぐ続く白い廊下が見えた。
 廊下は薄暗く、病院を連想されるような感じだった。 
 トペニは手をはなさないまま、
 廊下を進むと。
 突き当たりにあったドアをガチャリと開けた。
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