色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 ドアを開けると目の前には、隣接している木造の建物が見える。
 ドアではなく、引き戸で。
 トペニがガラガラ言わせながら戸を開けた。

 クリーニング屋を真っ先に連想させる構造だった。
 カウンターがあって、衣服が大量に天井から吊るされているのが目に入った。
「おう、トペニか」
 やけにハスキーボイスだなという声が聞こえて。
 視線をやると、貫禄たっぷりな40~50代と思われる女性が縫物をしていた。
 白っぽいノースリーブに黒っぽいスキニーパンツ。
 胸元までのびた髪の毛がゆらゆらと揺れる。
 眼鏡をはずした彼女は私をじろりと見た。
 獲物を捕らえるような野獣的な目をしている。
「ふーん」
 そう言うと。
 彼女はまた眼鏡をかけて縫物を続ける。
「オバチャン、縫物はほどほどにな。目ぇ悪くなるよー」
 と言って、トペニはすたすたと奥に進んで行く。
 カウンターを横切って廊下を歩いているうちに。
 不思議の国の世界にでも紛れ込んでしまったような錯覚になった。

 また、目の前にドアが登場して。
 開けてみると、強風で目が開けられなくなった。
 風がやんで目の前を見ると。
 中学だか高校の時に授業で見たような木造の建物があった。

 東西南北…4つの2階建ての建物があった。
 ベランダかな? 外には赤い提灯が怪しげに光っている。
 ロの字に建物が経っていて。
 中庭には大きな木が一本生えている。
 まるで、ここだけが海外じゃないかと錯覚する。

 呆然と立っていると、「行くぞ」とトペニに言われ。
 後をついて行く。
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