色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 沢山いる・・・。
 トペニの言葉に頭を鈍器で殴られたくらいの衝撃を受けた。

 ティルレット王国。
 平和で穏やかな国のイメージしかないというのに。
 残酷な事実を知って胸が痛む。
「じゃあ…、この国で貧しい女は娼婦ばかりか?」
「極端な質問だな。勘違いするな。流石にこの国はそこまで腐ってねえよ。女の立場が極端に低いんだよ。男性優位…という事実がずっと続いているだけ。男性といっても、出来る奴だけで、俺とかロケットさんみたいなのはね…」
「苦労しているんだな」
 と、上から目線で言ってしまうと。
 トペニは「ぎゃははは」と笑い出した。
「おまえ、面白いな。見た目とのギャップですぐに売れっ子になるかもな」
「……」
 黙っていると。
 トペニは「あー、おかしい」と腹をかかえて笑って。
「マスターはな。居場所のねえ子たちに、唯一の居場所を与えてくれんだよ」
 真剣な表情をしたトペニは窓のほうを眺めた。
「ここが捕まらないのはな。娼婦になろうとする女、一人一人が自分の意志で仕事しているってことだ」
「……」
「少女を誘拐して無理矢理働かせてる…ていう噂もあるらしいけど。ああ、おまえその噂を真に受けてさっきの質問したのか?」
「……」
「決して俺達は誘拐なんてしてねえし。ちゃんと相手が働きたいっていう意志を確認してからここで、働かせてる。無理矢理じゃねえ」
 果たして10歳のことが娼婦の仕事を理解しているのだろうか。
 じと…と疑いの目で見ていたのか。
 トペニは「信じてねえな」と苦笑した。
「まあ・・・確かにガキどもの中には娼婦が何なのかわからずに来た子もいるっちゃいるし。空港に着いた途端に逃げ出す子もいれば、薬を飲まずに車から逃げ出して後方から来た車にはねられた奴もいるんだな」
 さらりと、車にはねられた…という言葉にぞっとした。
「だが、言っておくが。本当に嫌だったら、嫌だと言えばいい。俺達は束縛することはねえ」
「ほんとか?」
 零れ出た言葉にトペニは不満そうに「本当だっての」と声を張った。
「ただな、俺達は慈善活動しているわけじゃねえ。娼婦の仕事が嫌だったら、他の仕事してもらって飛行機の運賃や面倒見た分の料金諸々の費用は貰うけどな」
「……」
「別にここを出て行って他の仕事をするのもいいけどな。おまえの場合に対しても、飛行機代とこっちで手招きした分の費用は払わなきゃいけないからな」
「私は嫌だとは言ってない」
 むぅ…と眉を寄せる。
 本当は心底、嫌だが。
 トペニにそんなことを言えるわけもなく…。
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