色褪せて、着色して。~沈丁花編~
「この国じゃ頑張っても身分で決められちまうことがあるんだよ。あの真面目君は庶民の出だからな」
 トペニの言葉を聞いているうちに。
 どこか…自分が経験したこととリンクしてくるような。
 ぞわっとした気持ちになった。

 ここに来るまで。
 知らなかったこと、知りたくもなかった事実が。
 一気に叩きつけられるように知るはめになって。
 王族の領地でヌクヌク生きている私は、しょうもないくらい恥ずかしい人間なんだと気づいた。
 だからといって、トペニたちに同情しようとも思わないし可哀想だなと少しは考えるかもしれないけど。
 だから、どうしたと開き直るに違いない。

 根っからの良い子だったら、何か行動を起こすのだろうか。
 バニラだったら、誰かのために一生懸命になって。
 王家に庶民の惨状を訴えかけるのだろうか…。
 良い子だあ?
 私は良い子になんてなりたくもない。
「オーナーはここに住んでいるのか?」
「住んでねえよ。さっき言ったろ。貴族だって。貴族がこんなところには住まない。たまに、顔は出すけどな」
「ふーん」
 トペニは結構、話してくれるんだな。

 色々と喋っているうちに夜が明けていく。
 やがて人の声もしなくなって。
 建物は静寂に包まれていく。
「ここの人間は夜行性だからな。飯食ったら、皆。寝て、夜また仕事ってことだ。エアーもそろそろ寝ろ。俺も寝るわ」
 トペニの言葉に頷いた。
< 39 / 74 >

この作品をシェア

pagetop