色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 50代前半だろうか。
 丸い輪郭に、くっきりとした二重目。
 若い頃はさぞかしモテていたんでしょうなという顔だ。
 がっちりとしてはいるけど、背はそんなに高くない。
 白いシャツに黒っぽいズボン。

 男はじっと私を見た後。
 ずかずかと歩いて私に近寄ってきた。
 声も出せず。
 身体が動かない。
「安心していいから。ローズ様から聴いてる」
 耳元でボソボソと言った。
 ローズ…という言葉に安心すると。
 私はへなへなとしゃがみ込んでしまった。

 枕元の行灯の光が。
 私と男を映し出してくれている。

 男は目の前にあぐらをかいて座った。
「あまり、大声は出さない方がいいね」
 襖越しに、トペニの気配がした。
 やっぱり見張られているんだろうな。

「ローズも酷いことするね」
 さっきは「ローズ様」と様付けしていたくせに。
 急に態度を変えて男が言うものだから。
 驚いて「えっ」と声を漏らしてしまう。
「威厳を守るために、君を利用したんだろう」
「そんなこと…」
 ない…と言い切れない。
 わかっていても。
 あの人を信じたい。

 他人に言われると。
 ここまで傷つくのか。

 遠くから聞こえる人のざわめく声が、
 すっと…聞こえなくなった気がした。
 早く、助けは来ないのだろうか。
「君は、スカジオン王国の王族じゃないんだろ?」
 まっすぐと、男が言うので。
 今度は、大声で「えっ」と声を出してしまった。
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