色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 男は振り返って襖越しのトペニを確認した後。
 私を見た。
「セシル・マルティネスさん」
 びくりっと身体が震えあがった。
 これじゃ相手の思うつぼだと思いながらも。
 身体がガタガタと震える。

「王家に近寄って何がしたい?」

 鋭い目つきで男が私を見たかと思えば。
 身体を倒されて。
 男が上に乗った。
 恐怖で声が出ない。

 びりっと乱暴に服を破かれると。
 胸がはだけた。

「親からも愛されず、一人孤独に生きていた君を救ったスカジオン王国の王子様。今度はティルレット王国の王族に近寄って多大なる愛を受け取りたいの?」
 がしっと両肩をおさえつけられる。
 声は出ない。
 身体は動かない。
 気持ち悪い。
 何だ、この男は。

 目をそらすと。
 ふふっと笑われて鼻息が顔にかかる。
 味方じゃないのか。
 この人は味方ではないのか。

 騙されたのかもしれない。
 囮なんて嘘で。
 だったら、もう。
 この国を滅ぼしてもらうしかないのかな。

 遠くから聞こえる何人かの足音が。
 襖の前で止まると。
「動くな」
 という威勢のいい声が聞こえた。
 男はあっさりと私から離れて両手をあげる。

 提灯の灯り。
 行灯の灯り・・・心細い明かりのもとで。
 何人かの騎士が土足で入ってきた。
 起き上がって、先頭にいた騎士の男と目が合うと。
 私は、今まで我慢していたものを爆発させた。

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 
 自分でも驚くぐらいの悲鳴は。
 館内に響き渡ったのであった。
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