色褪せて、着色して。~沈丁花編~





「マヒル様はいつも落ち着いていらっしゃいますね」

 と、バニラが言ったのはいつだったか。
 淑女のたしなみとして。
 最低限、おしとやかに、優雅に品のある行動を取らなければ…と。
 小さい頃からそんな教育を受けていれば、誰だって落ち着いているように見られるはずだ。
 ただ、私の素顔を知るテイリーから言わせれば、
「先輩は世の中に無関心なんですね。誰にも頼らないで、一人で抱え込んで。絶対に人前で泣かない」
 冷静に分析するテイリーに私は冷ややかな目を向けたものだ。

 一人で抱え込んだことなんて一度もない。
 現に私はテイリーにありったけの愚痴をこぼしていたし。
 あの女…アミラを探るように命令した。

 泣かない…と言っても。
 婚約破棄のときと、蘭様に家を追い出されたときは。
 ガチ泣きしていた。


 世の中に無関心…というよりも。
 私はきっと他人に無関心なんだ。

「もう、大丈夫ですからね」

 人生で最大の絶叫をした後。
 私は太陽様から目をそらして。
 がたがたと震えた。

 一瞬、現実逃避したけど。
 やっぱり目の前にいるのは太陽様なわけで。

 太陽様はどうやら私に気づいていないようで。
 しきりに「大丈夫ですよ」と言ってくるが。
 多分、太陽様以外の騎士は私だとわかっていて、困惑しているに違いない。
 棒立ちしているではないか。

 そのうち、私を襲った男が「アハハハ」と笑い出したかと思うと。
「太陽、奥さんは大事にしなさい」
 と言って。
 部屋から出て行こうとする。
 他の騎士たちが慌てて男の腕をつかんで。
 どこかへと連れて行く。
「へ? 奥さん。何で俺の名前・・・?」
 余計な事言うな…と廊下のほうを私は睨んだ。
 厚化粧しているし、まさか太陽様はこんなところに私がいるとは思っていないはずだ。

 ごまかせるはず…と思ったのに。
 太陽様は暗がりの中で。
 顔を近づけて、じろじろと私を見た。
 思わず、また「ぎゃー」と悲鳴をあげそうになる。

 太陽様は上着を脱ぐと。
 私の肩にかけた。
「歩けますか? 大丈夫っすか」
 気づかれた…。
 と思ったときには、もう。
 太陽様は目を合わせてもくれなかった。
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