色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 馬車が止まると。
 クリス様がすぐに降りて、ドアを開けて私を降ろす手伝いをしてくれる。

 外に出て風にあたると。
 クリス様に当たり散らしていた自分が急に恥ずかしくなった。
 この人は別に悪くないのに。

 今更、態度を変えることなんて出来ることもなく。
「さようなら」
 とだけ言って。
 その場から離れた。

 見慣れた家に安堵して。
 ドアを開けると。
「おかえりなさいませ」
 といるはずのない人物の姿が見えたので、ドアを閉めた。
「ん?」
 もう一度、ゆっくりとドアを開けると。

 メイド服姿の女の子が笑顔で立っている。
 一週間、休みを与えたのに何でいるのか…とか。
 気を遣わせちゃってごめん…とか。
 色々言いたいことがあるのに。
 真っ先に口走ったのは、
「ただいま。バニラ、お腹すいちゃった」

 さんざん泣いたはずなのに。
 耐え切れずに涙がこぼれた。
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