色褪せて、着色して。~沈丁花編~

ヤサシイノネ、アナタハ。

 着替えてくる…と言って。
 部屋で涙を拭った。
 すっかりと忘れていたけど。
 胸元が破けたネグリジェに太陽様の制服を着たままだった。
 あとで返さなきゃと、上着をハンガーにかける。

 ダイニングに行くと。
「すぐにお茶にしますね」
 と言ってバニラが言った。

 バニラは何も訊いてこない。
 彼女なりの優しさは痛いほど沁みた。
 泣いて腫れあがった目を恥ずかしいなと思いながら。
 バニラの淹れてくれた紅茶は凄く美味しかった。
「ゆっくりしてくればよかったのに」
 と言いながら、彼女が目の前に座ってくれることが。
 とても有難かった。
「充分、ゆっくりしてきましたわ。お土産も沢山買ってきましたよ」
 と言って笑ってくれた。

 知らない間に。
 私は凄くバニラのことを頼っていたんだって気づいた。
 彼女がいないだけで、こんな目に遭うとは。

 テイリーが昔、「先輩は人に頼らない」と言ったけど。
 頼ったところで相手が何もしてくれないって知ったから。
 なんでもかんでも自分でやるようになった。
 それでも、私はかつての婚約者にべったりと甘えた。
 随分と寄りかかって頼ったものだ。

 …なのに裏切られた。

 ティーカップを持ちながら考えてしまう。
 人を信じるのが怖いのかな。
 人を好きになるのが嫌なのかな。

 ちらっとバニラを見ると。
 何もかも見透かすような赤い目でこっちを見ている。
「マヒル様。食事に何かリクエストはありますか?」
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