色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 クリス様の言う『あとの人間』というのは、どこまでの人間を言っているのか。
 喉元まで声が出かかったが、怖くて訊くことが出来ない。

 …それよりも。

 この空気の重たい上にべとべととした湿度の中。
 ふぅとため息をついた。
 すぐにやるべきことは決まっていたんだと思う。
「クリス様、この男を出して上げてください」
「え?」
 何を言っているんだろう…という驚いた表情でクリス様が私を見下ろしている。
「王様にお会いしたいのですが。この男と一緒に」
 手を拳にして、じっとクリス様を見た。
 迷っている暇なんてない。
 すぐに動かなきゃ間に合わなかった。
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