色褪せて、着色して。~沈丁花編~

アクム、フタタビ

 あまり眠れなかった。
 うとうとしたところで、また目を覚ますの繰り返しで。
 気づけばお昼近く。
 食欲がなかった。
 味を感じない…。
「ごめんね。バニラ。せっかく作ってくれたのに」
「いえ。そんなことおっしゃらないでください」
 バニラがそっと皿を片付ける。
「何か食べたいものがあったら、おっしゃってくださいね。今、お茶淹れますから」
「ありがとう、バニラ」

 昨日の出来事を夢だと思いたかった。
 外は明るく。
 穏やかな風が入ってきて。
 静かで落ち着いている空気。

 色んな事が起きすぎて。
 頭がパンク寸前だったけど。
 少しずつ、落ち着いてきた。
 頭を手でおさえた。

 今、私が解決すべきことは一つだけ。
 トペニをどうにかすること。
「どうぞ、マヒル様」
 バニラが静かに紅茶を淹れてくれた。
「ありがと」と言ってバニラを見た。
 バニラに相談しなきゃいけないなあ。
「あのね、バニラ」
 と、話しかけようとすると。
 バニラはとっさに玄関のほうを見た。
 私もつられて玄関のほうに視線を向ける。

「ただいま、戻りましたー。太陽っす」

 自分の家だというのに、勝手に家に入ってこないのが太陽様らしいというか…。
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