色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 カイくん、ナズナくん、セリくん、キキョウくんの4人は。
 14歳になる男の子たちで普段はカスミ様という方の屋敷で使用人…お手伝いさんとして働いている。
 10代前半で雇用主と雇用契約を結んで働いている彼らを見てビックリしたのを覚えている。
 本当のことを言えば、彼らは将来国家騎士団になる為に騎士団学校で勉強していたけど。
 色々な理由で卒業が出来ず、騎士にもなれず路頭に迷う…寸前にユキ様という方が彼らを救ってくれたそうだ。
 彼らに家事手伝いをさせ、適度な賃金を与え。
 彼ら4人は寮みたいな…アパートみたいな?
 実際見たことないからわからないけど、そんな建物で暮らしていたけど。
 カイくんだけは馴染めず、それを知ったサンゴさんがカイくんを引き取って。
 一緒に暮らし始めたそうだ。

 カイくんは、耳は聞こえているけど。
 喋ることが一切出来ない。
 スケッチブックとペンを常に持ち歩いて周りとコミュニケーションを取っている。

「いやあ。皆さん、今日は僕のために集まっていただきありがとうございます」

 一人だけ、テンションの高いトペニにマリアちゃんと私はドン引きしていた。
 だが、不思議なことに子供たちはトペニに懐いているように見える。
「俺の母ちゃんの味。クリームシチューを召し上がれ!」
 皿に盛られたシチューを見て「うーん」と言ったのは。
 ナズナくん、マリアちゃん、ジョイさんの3人だ。
 見たところ、フツーのクリームシチューにしか見えないのだが。
 何を脅えているのだろうか。

 ジョイさんがじとりとトペニを見た。
 トペニが視線を気にもせずにスプーンでシチューをすくって食べた。
「やだなー。毒なんて入ってませんよ。なあ、眼鏡くん」
「僕の名前は眼鏡じゃなくて、ナズナです。そもそも、貴方の歓迎会じゃありませんから」
「別にいーじゃん。みんな集まったんだしさあ。怖い話するなら、俺にもとっておきのあるから後で話してやるぞ」
 けらけら笑うトペニに、キキョウくんが「やったあ」と言った。
「怖い話って?」
「今日。ちょうど僕たち休みで、サンゴさんがお出かけするから今夜はうちに泊まっていいよーって言ってくれて。変な奴いるからそいつは放っておいていいよーって」
 変な奴とはトペニのことか…。
「僕たちが住んでるところ、消灯時間21時で決まってるから。だから、今夜はサンゴさんの家で思いっきり夜更かしして、怖い話でもしようってなって」
 キキョウくんがニコニコしながら、シチューを一口食べて「おいしー」と言う。
「僕たちが泊まりに行くって言ったら、サンゴさんが『おまえらと変なやつだけじゃ不安だから』って、ジョイさんとマリアさんを呼んできて来てくれて」
 思わず、「へえ~」と声を出して、マリアちゃんを見た。
 ジョイさんとマリアちゃんは国家騎士団に所属していて。
 ひょこんなことから仲良くなったけど。
 マリアちゃんはどこかと言えばクールなイメージだったので。
 サンゴさんに頼まれて、わざわざ非番の日に様子を見に来てくれたのかと悟る。

 いつだったか、バニラが言ってたな。
「マリア様はぶっきらぼうですが、あの方は絶対にお人好しなのです」と。

「なんだよ。太陽夫人。俺がここにいちゃいけないのか」
「いえ、今日もお美しいですわね」
 と皮肉を込めて言うと。
 マリアちゃんは、ピクリと眉毛を釣り上げた。
 騎士としては、あまりにもマリアちゃんは女性的な顔立ちで。
 下手すりゃ女装が凄く似合いそうな予感がした。

「おいしーよ。これ、ナズナも食べなよ」
 4人の中で一番の食いしん坊であるセリくんの一声で。
 ナズナくんが恐る恐るシチューを口にする。
「…おいしい」
 ナズナくんは驚いてトペニを見た。
「俺の故郷じゃ、材料ケチらずに牛乳どばどば、じゃがいもゴロゴロ入れるのがコツだ!」
 なんだか、そう聞いてしまうと。
 美味しくなさそうに見えてしまうけど。
 口に入れるといつだったか、バニラが作ってくれたシチューと同じくらい美味しかった。

「太陽夫人は何しに来たんだ? この男の様子見に来たのか」
 マリアちゃんは機嫌悪そうにシチューを口にする。
「え…」
 そういえば…という顔でジョイさんが私を見た。
「もしかして、太陽と喧嘩したとか?」
「うっ…」
 思わず私が声を出すと。
 トペニが、
「あはははは~。マヒルちゃんが娼婦として潜入したとき助けたアイツが旦那さんだったのかあ」
 と、いう爆弾を投下した。

「え」と子供たちが声を漏らして黙った。
「なんで、子供たちの前で言うの!!!」
 シチューの入った皿を置いてトペニを睨みつける。
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