色褪せて、着色して。~沈丁花編~
 居間に残ったのは、マリアちゃん、ジョイさん、私の3人で。
 マリアちゃんとジョイさんがギャーギャー言い合っているのをぼーと見ていたら。
 急にマリアちゃんがこっちを見た。
「太陽夫人さ、今まで危機感ってのはなかったのかよ」
「危機感?」
「ここは野郎ばかりしかいないんだぜ。本当に危機感持ったほうがいいって」
「マリアちゃん、お兄ちゃんみたいだなあ」
 ジョイさんが呆れて言った。

「…それを言ったら、バニラなんて十代だし。可愛いからもっと危機感必要だと思うけど」
 面倒臭くなって、この場にいないバニラの話題を振ると。
 マリアちゃんは「ぎゃあ」と叫んで両手で顔をおさえた。

「まあさ。マリアちゃんは紳士だから女の子の心配しがちだけどさ。この目の前にいるマヒルちゃんはさあ。国王の愛人で、国王の親戚なわけだろ。冷静に考えれば、マヒルちゃんに手え出そうもんなら、この国が滅ぶわけだろ」
 だから、心配すんなよ…とジョイさんはマリアちゃんの肩に手をぽんぽんと添えた。

 急になんで、心配してくれるのか不思議だったけど。
 まあいいやと思って2人のやりとりを見ている。
 たたたたっと暗闇から走る音が聞こえてきて。
 カイくんがぴょんっと抱き着いてきた。
 スケッチブックを見ると、「マヒル様の着替えあったから、取ってきた」と書いてある。
「え、ほんと!? バニラが置いていったんだね」
 ありがとうとお礼を言ってカイくんから服を受け取る。

 カイくんはスケッチブックに急いで文字を書いて。
 マリアちゃんに書いた文字を見せた。
 マリアちゃんは「ああ…そうだな」と力なく頷いていた。
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