色褪せて、着色して。~沈丁花編~

オウチニカエレバ

 すぐにバニラに命令して太陽様の拘束を解いてもらって。
 椅子に座るように誘導する。
 太陽様に会ったら何を話すべきかシュミレーションしていたはずなのに。
 飛んで行ってしまった。
 太陽様は疲れた表情で、バニラが用意した紅茶を飲み干して「うまいっす!」と叫んだ。

「あの、太陽様」
 こうやって面と向かって話すのは、本当に数少ない。
「私…、離婚はしません」
「…そうっすか」
 あっさりと頷いた太陽様に、「え」と声を漏らしてしまう。
「あの、太陽様。私は別に太陽様と結婚して自分が不幸だとか可哀想だとは思っていません。そりゃ、王族の方々には酷いことをされることが多々ありますけど…でもそれは太陽様のせいではないですから」
「……」
「太陽様が私の叔母を好きなのは知っています。責任を感じてくれているのも知っています。でも、私は離婚したくないし、離婚する気はないのです」
「…そうっすか」
 太陽様は目を合わせてくれなかった。
 自分で口に出してみると、本当に私は我儘で身勝手だなと思う。

 うつむいたかと思えば、太陽様はこっちを見た。
「俺は…そうですね。どういえばいいのか…」
 リスのようなクリクリとした大きな目に。
 隈がぶわっと浮かんでいる。
 何で、こんなにもどかしいのか。
 歯切れの悪い会話にイライラしそうになる。
「俺が思うにですね…」

「太陽。太陽! 緊急招集だ」

 外が騒がしくなったかと思えば。
 緊急招集…という声が聞こえて。
 太陽様はすぐに表情を変えて立ち上がった。
「すんません、俺行きます。話はまた今度」
「え、ちょっと。たいよう・・・」
 バタバタと走り去る音。
 バタンと乱暴にドアが閉まる音。

「ちょっと待ってよお・・・」

 太陽様とまともに会話する日々は。
 滅多にない。
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