暴君御曹司のお気に入り

最悪の出会い

出会いは突然だった。

狭い道にもかかわらず、周りの目を気にもとめずに道の幅を大きく取って歩く彼にぶつかってしまったのが、私たちの出会いだ。

「ぎゃっ！」

思わず声を上げてよろついた私を、彼は冷たい目で見下ろしていた。

「す、すみません、、」

その冷たい目に反射的に謝罪の言葉が出る。
同時に私は彼の服装をちらりと見た。

高そうな服、腕時計、靴、高そうな香水の香り、そして、、

まるで、ゴミを見るかのような目。

数秒の沈黙を破ったのは彼だった。

「、、なんだお前？俺にぶつかるなんていい度胸だな」

「、、、」

こちらは謝罪をしたのに、何故こんなに上から物を言うのかと、彼の態度に多少のイラつきを覚えたが、私はその言葉を飲み込み黙った。一刻も早くこの場を切り抜けたい。

なぜなら、ぶつかった衝撃で日々のご褒美に買ったハーゲン〇ッツがアスファルトの上に転がり落ちてしまったからだ。

こんな炎天下に晒されていては、アイスが溶けてしまうかもしれない、とどうしようもない不安に駆られる。

「なんだよお前、言葉喋れないのかよ？俺はお前に当たったせいで今も肩が痛いんだけど？何？慰謝料払ってくれるの？」

「、、、」

、、、なにこいつ
大体お前が道の幅を大きく取りながら歩くからこうなったんだろうが！！！

なんて思ったが、早くこの場を終わらせたいことを考えると、きっとここで何も反抗しない方が得策だろう。それに、こんな男に怒りを露わにしたところで体力が消費されるだけだ。と考え、私はさらに黙り込んだ。

「は？本当になんなのお前？何か言えよ！俺が誰だか分かってその態度なのか？俺は、、、」

黙ったままだったのが彼の逆鱗に触れたのか。そう叫び出した彼は、あろう事か地面に落ちた私のハーゲン〇ッツを踏み潰した。

そんな彼の行動に堪忍袋の緒が切れた私は怒りのままに1歩前へと躍り出る。

「、、、はあ？私の歩き方に問題があるの！！？へえ、じゃあ私がカニみたいに横歩きして姿勢悪くなっちゃえばいいんだ？そのせいで通院する羽目になって金どんどん飛んでいってうちが破産すればいいんだ？破産して高校生の私も働かなきゃいけなくなって過労死しちゃえばいいんだ？」

そいつの言葉を遮りながら、男に反抗する時によくお世話になるヒステリック構文を使い始めた私に一瞬顔が引きつる非常識男。

「は、、、？お前、誰に何言ってるか分かってんのかよ？俺は綾川財閥の御曹司、綾川湊だぞ！？」

そう言えば私が怖気づくと思ったのか。何故かドヤ顔で言ってくるその男を見て私はさらに腹が立ってきた。

この態度からすると、親の金と名誉に縋ってるだけのつまらない男なのだろう。

「綾川 湊、、、？聞いた事もないわ。この辺じゃ有名な金持ちの息子か何か？歯にスネの欠片ついてんぞ」

「なっ、、、！！！」

図星なのか、それともこれまでそんなことを言われたことがなかったからなのか、わなわなと震え始める非常識男。

そんな彼を見るとちょっと可哀想だと良心が傷ついたが、こいつは私のハーゲン〇ッツを踏み潰したのだ。簡単に許せはしない。

「お前なんて、俺の権力があればどうにでも出来るんだぞ！！！お前を殺しても揉み消せるくらいの力がうちにはあるんだ！生意気な口聞いてられんのも今だけだからな。次会ったらどうなるか覚えとけ！」

そう怒鳴ると彼はおもむろに走り去っていった。

「なんだったの、、？」

嵐のように過ぎ去っていった非常識男を呆然と眺めながら、独り言を呟く。

次会ったら〜なんて言っていたけれど、きっともうあんなやつと会うことはないだろう。

そう、その時は思っていた。