暴君御曹司のお気に入り
イルカショーはあっという間に終わってしまった。

何度も家でイルカショーを見たことがあるとドヤっていた綾川も終始はしゃいでおり、ずっと「見ろ！おまえ！」と叫んでいるのが少しうるさかった。

時計を見ると16時。
綾川との待ち合わせからまだ数時間しか経っていないことに驚く。

「これからまたどこかに行くの？」

水族館を出て、入口の前で立ち止まり尋ねる。

「ああ、、、！スター〇ックスコーヒーだ！」

ス〇バを略さずに言う人を私は初めて見た。
というか天下の綾川財閥御曹司でもス〇バを飲むのか。

「ほ、ほら！庶民の女子高生はよく飲むんだろ？」

そんな私の気持ちを悟ったのか、慌てて弁明する綾川。

「飲んだことないの？ス〇バ」

「あるわけないだろ。俺は普段はブラジルから取り寄せたコーヒー豆を使ったスペシャルなコーヒーを飲んでるんだからな！。今日は特別に庶民のお前に合わせてやるって言ってるんだ」

何やら得意げに語り始めた綾川に、私は一抹の同情を覚えた。

あんなに美味しいものを飲んだことがないなんて。身分が高いとそれはそれで大変なんだな。

そんな私の心の内は露知らず、彼はスマホを片手に「スター〇ックスコーヒーはあっちだ！」と私の手を引いた。
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