暴君御曹司のお気に入り
その集団に近付こうかどうかと足踏みをしていると、私の横を誰かが通り抜けていった。

「湊さん、早乙女 姫奈ですわ！覚えていらっしゃる？」

大量の女の子たちを押しのけ、その中心にいる綾川へと軽やかに歩みを進めていったのは、見覚えのある巻き髪の女だった。

淡いピンクのドレスを揺らしながら、満面の笑みで綾川の元へ駆けつける。

さっきトイレで私に突っかかってきたあの女だ。

「二度と会うまいって思ってたのに、、、」

私が今、苦虫を噛み潰したような顔をしているであろうことは鏡を見なくとも分かった。

二度とどころかたったの15分程で再会してしまうなんて、今日の私はとことんツイてない。

そんなことを思いつつも、綾川たちを観察する。

「ヒナ、、、？」

色んな女の子を相手にして疲れたのか、元気が無さそうに見える綾川は、少し首を傾げて彼女を見た。

「ええ。早乙女グループの令嬢ということで何度か挨拶させてもらってますわ！」

あんなに私に向かってブチ切れていたのが嘘かのように、早乙女という名前の彼女は柔らかく微笑んだ。

「、、、ああ。お久しぶりです」

きちんと思い出したのか、それとも演技なのかは定かじゃないけれど、綾川も彼女に笑みを返した。

それを見た私は何故か少しムッとしてしまう。

あの女、ほんとは全然おしとやかじゃないのに、猫かぶりやがって。

「またお会い出来て嬉しいです！」

早乙女ははしゃぎながら綾川の正面に立ち、周りの女の子たちをガン無視して話し始めた。

しかし、一斉に女子からのブーイングを受けるんだろうなという私の予想は外れて、誰からの文句も聞こえない。

「姫奈様が相手なら勝てるわけないわよね」

「どう見たってお似合いだもん」

「美男美女だし、家柄も申し分ないし、、、」

そんな周りの女子の呟きを、私は複雑な思いで耳にする。

私が綾川の隣にいた時は「ちっともお似合いじゃない」みたいな態度をとってきたくせに、、、。
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