暴君御曹司のお気に入り
搭乗時間になったため、チケットを提示してさっさと機体に乗り込む。

ファーストクラスは流石に豪華で、そのフカフカな席に座ると、慣れ親しんだリムジンを思い出した。

「本当に行くのか、、、」

今まで他人事のように感じられていた『留学』だったが、今になってやっと実感が湧いてきた。

今回は親父の知り合いの経営者のところで2年間、いろいろな経験をさせてもらえることになっている。

いずれ綾川財閥を継ぐことになる俺はこの留学で、何歩も成長しないといけないのだ。

それこそ、紬のような女1人にあれこれ振り回されているような今の俺を脱却するために。

「いや、振り回していたのか俺か、、、」

そんな事実に今頃気づいて、思わず自嘲するような乾いた笑い声が溢れ出た。

窓の外を眺めてあいつの顔を思い浮かべる。

傷は綺麗に治っただろうか。

財閥の御曹司という自分の立場も弁えず、あんな破天荒な女を惚れさせようと躍起になっていた過去の自分が馬鹿みたいだ。

あの阿呆らしい計画が書かれた紙は、自室を片付ける際に捨てた。

まああの女のことだから俺のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。

そう思うと少しだけ安心した。
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