初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
「皆様、ようこそお越しくださいま――」

「「エリザベス様!」」

 客間の扉を開け中へと入ったエリザベスは、お茶を飲みながら歓談していたアイリスとミランダからの熱い抱擁を受け、半年ぶりの友との再会を果たしたのである。

「アイリス様、ミランダ様。ご心配をおかけしました」

「そうですよ。突然領地へ行ってしまわれて半年だなんて、長過ぎます」

「本当に。お身体はもう大丈夫でございますの? 静養中とのことでしたので、こちらから押しかける事も出来ず、でも心配でヤキモキしてましたの。エリザベス様、お痩せになられて……」

「皆様、こちらからご連絡もせず申し訳ありません。領地でしっかり休養しましたので体調はもうすっかり元に戻っておりますのよ。もうすぐ王都にも戻ると思いますので、その時はよろしくお願い致しますね。社交界の話や今の流行など、色々と教えてくださると嬉しいわ」

「もちろんです。あっ! そうだわ。王都に新しく出来た菓子店へ三人で行きましょうよ」

「それ、いいわね。あそこのケーキが絶品なのよ。エリザベス様もきっと気にいるわ」

「おいおい、ミランダ。そろそろ私達をエリザベス嬢に紹介してくれないかな?」

 突然割って入った涼やかな声に、我に返る。

(そうだった。お二方のパートナーも来ている事をすっかり忘れていたわ。これでは、ホスト役失格ね)

「失礼致しました。えっと、ミランダ様。こちらの殿方が、カイル・スバルフ侯爵子息様ですの?」

「初めまして、カイル・スバルフと申します。ご存知かと思いますが、王太子付き近衛師団の隊長をしております」

「お噂はかねがね。ご挨拶もせず、話に夢中になってしまい申し訳ありませんでした。エリザベス・ベイカーと申します。ミランダ様から、とても素敵な方とお伺いしておりますの。ミランダ様との婚礼の儀も間近とか。おめでとうございます」

「お隣の方は、アイリス様の旦那様でいらっしゃいますね。エリザベス・ベイカーと申します」

「初めまして、ルイ・ヴェッティと申します。同じく王太子付き近衛師団の副隊長をしております。常々、妻がお世話になっているようで」

「いえいえ、こちらこそアイリス様とは、仲良くしてもらい嬉しく思っておりますの。ルイ様とアイリス様は幼なじみだったとか。今でも仲睦まじいご様子、素敵ですわ」

 ミランダを見つめるカイルの甘い視線。そして、さっと妻の側に寄り、さりげなく腰に手を回し引き寄せるルイの行動に、頬を染めるアイリス。

(私、完全にお邪魔虫ね)

 仲睦まじい二組のカップルに、エリザベスまで赤くなってしまう。

「そうそう、私達の友人をひとり一緒に連れて来たので紹介させてください」

 部屋の奥、窓際に立つ男性を認めた瞬間、エリザベスの心臓が大きく跳ねた。

(うそ、でしょ……)

 陽の光を浴び輝く髪が金色に見える。

「――金色の……」

「お久しぶりです。エリザベス嬢」

 金色の少年の残像が消え、見知った天敵へと初恋の君が変わっていく。

(えっ? なぜ貴方がここにいるのよ、ハインツ……)

 
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