初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
(あぁぁ、イライラする!)

 朝食を終え、アイリスとミランダとお茶をするべく、庭園のガゼボへと来たエリザベスだったが、ハインツのすまし顔がグルグルと脳裏を巡り、怒り心頭となっていた。

 陽の光が燦々と差しこむダイニングに置かれた長テーブル。対面に座ったハインツと目が合うこと数回、その度にドギマギしていたのはエリザベスだけだった。そう思うと腹が立って仕方がない。

(どうせ、昨晩寝られなかったのも私だけなんでしょうね!)

 夜中に男性の部屋に侵入した自分が全て悪いのはわかっている。ただ、先に手を出したのはハインツだ。しかも、キスする必要性はこれっぽっちもない。キス……

 指先で唇をなぞると、ジンとした痺れが走る。エリザベスは、キスをされるのも初めてだったのだ。

「エリザベス様、大丈夫ですか? お顔が真っ赤ですわ」

「へっ?」

「そうですわ。まだ、体調が優れませんの? 朝食の席でも終始落ち着かない様子でしたし、心配ですわ」

「あっ、いいえ、アレは……その……」

「今だって、うわの空と言いますか、ぼーっとされていますし、体調が優れないようならお部屋でお休みになられた方がよろしいかと思いますわ」

 お二人にいらない心配をかけてしまった。これも全てハインツが悪い。昨晩の自身の行いを棚に上げ、奴に責任転嫁しなければやっていられない。

「……アイリス様、ミランダ様、申し訳ありません。私からお誘いしましたのに、心配をおかけして。体調はもうすっかり戻っておりますの。ただ、昨晩寝られず、少し寝不足と言いますか」

「あら! では、尚更お休みになられた方が」

「ご心配ありがとうございます。でも、皆様と話したい欲求の方が強いわ。だって、半年ぶりですもの。ダメかしら?」

「ダメだなんて。エリザベス様の体調が問題ないのでしたら、ぜひこのままお茶会を続けたいですわ。ねぇミランダ」

「えぇ、半年ぶりですもの。積もる話もありますし」

「なら、続けましょう」

「「えぇ」」

 何とか丸め込めたかしら……

 二人に朝食の席での不審行動の理由を知られる訳にはいかないのだ。まかり間違って、昨晩の夜這いが知られたら、エリザベスの公爵令嬢としての生命は絶たれる。今度こそ嫁のもらい手なしと修道院へ入れられるのは確実だ。

(ちょっと待って……。もしかしなくても、ハインツ様に弱味を握られている状況ではないの!?)

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