初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
 ハインツがキスをした理由は、夜這いをした事を忘れさせないため。エリザベスの弱味を握ったぞと脅しをかけたのだとしたら。昨晩の事をハインツがカイルやルイに話したら、エリザベスの地に落ちた名声は、さらに悪くなる。

 今更ながら気づいた事実にエリザベスの顔が青ざめる。

「アイリス様、ミランダ様! あの、カイル様とルイ様から、何か聞いておりませんか?」

「え? 何かとは?」

「えっと、ハインツ様の事や私の事というか……」

 首を傾げ、思案顔の二人を見て、エリザベスは墓穴を掘った事に気づくが、後の祭りだ。

(もう! 自分から、昨晩の出来事を掘り返して何しているのよ)

「あっ! いいえ、違いますの。えっと、えっと……なぜ、ハインツ様が皆様と一緒にベイカー公爵領に来られる事になったのかと思いまして」

「そうですわよね。私は何も聞いていませんけど、ミランダ何か聞いている?」

「私も詳しくはわかりませんが、今回の訪問はハインツ様からカイル様へ打診があったものと伺っていますわ」

「私もそうよ。ハインツ様からルイへパートナーと一緒にベイカー公爵領へ行かないかと誘いがあったようなの」

 何ですって!? 今回の訪問は、ハインツ様からの打診ですって?

 そんな話、父からの手紙には一切書かれていなかった。イレギュラー的にハインツが来ることになったとエリザベスは考えていたが、二人の話では、彼が今回の訪問の発案者ということになる。

(ハインツ様とお父様が、連絡をとっていない訳がないわね)

 今回の婚約破棄騒動で中立派だったベイカー公爵家は第二王子派から距離を置く事になる。そしてシュバイン公爵家は王太子派筆頭だ。

(まさか、お父様は子供同士を仲良くさせて、王太子派との繋がりを築くつもりなのかしら? 子供同士の仲は最悪だって知らないとか?)

 シュバイン公爵家との繋がり目的で今回の訪問を計画したのだとしたら、ハインツが来ることをエリザベスに知らせた方が良い。エリザベスが知っていたら、ホスト役として最大限のおもてなしが出来る。知らせない事で被るデメリットの方が大きい。事実、イレギュラーで現れたハインツの存在に心乱されたエリザベスは、弱味まで握られている始末だ。

(なぜ、お父様はハインツ様が来ることを教えてくれなかったのかしら?)

 今回の訪問に関して、父とハインツとの間でどんな会話がなされたのかをエリザベスは知らない。ただ、その会話の内容がエリザベスに関する事であるのは疑いの余地がない。

(ハインツ様の目的とは、いったい?)

 不意に浮かんだ予感に、エリザベスの心がざわついていた。
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