初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
「ふん! 私の将来は、ベイカー公爵家が決める事であって、ハインツ様の口から聞くものではありませんわ」

「そんな事言ってよろしいのですか? 貴方の今後が私に委ねられているとしてもですか?」

「はぁ!? いったいどう言う事よ!」

 エリザベスの放った驚き声に前を行く二頭が止まり、こちらを振り返る。その様子に慌ててエリザベスは口を噤んだ。

「ハインツ! 何か問題でもあったか?」

「いいや、何もない。ただ、エリザベス嬢なんだが、少し気分が悪そうだ。このまま公爵邸へ帰るから、皆はそのまま遠乗りを楽しんでくれ」

 先頭を行くカイルの声に、ハインツが適当な返事をする。

「わかった! ハインツ、気をつけて。エリザベス嬢の事、頼むぞ」

 そう言って、馬首を前へと戻したカイルとルイが馬を走らせ、駆けていく。

「ちょっと! 気分が悪いなんて一言も言っていないじゃない」

「そうですか? 見るからに眠そうですが」

「うっ……」

「それに、あいつらに私が此処に来た真の目的を聴かれても良いなら呼び戻しますが。それを聴かれて困るのはエリザベスだと思いますよ。逃げられなくなる」

 ハインツ様は人に聴かれてはマズい話をしようとしているの?

 煽られる恐怖心に言葉が続かない。

「わかってくれたようですね。では、参りましょうか。誰もいない場所へ」

 馬首を今来た道とは反対方向へと向けると、指示を受けた馬が駆け出す。木々の間を抜け、どんどんと森の中を進み着いた先は、あの泉だった。

 
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