初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
少女に会えない焦燥感に突き動かされ、あの少女の身元を探り始めたハインツは、対岸のベイカー公爵領に住む『感情のないお姫様』の噂を知ることとなる。
その噂を聞き確信したのだ。感情のないお姫様こそ、あの少女だと。
まさか、貴族令嬢だとは思わなかった。従者もつけず貴族令嬢が一人で泉に来るなど、本来であれば有り得ない話だ。だからこそ、ずっと町娘を探していたのだが、貴族令嬢であったなら見つかるはずない。
ただ、あの少女が貴族令嬢であるなら話は早い。しかも幸運なことに、ハインツはシュバイン公爵家の嫡男だ。相手が、公爵令嬢であろうと、婚約打診を無碍には出来ない。
喜びに打ち震えていたあの時のハインツは、まだ知らなかったのだ。公爵家同士の結婚が不可能であることを。
何度、公爵家嫡男の立場を呪ったことか。
何の力も持たないシュバイン公爵家を呪ったことか。
ただ、エリザベスへの想いを捨て去る選択だけは出来なかった。
この十五年でやれることはやった。
王太子殿下の学友から、側近へと昇りつめ、彼の右腕と呼ばれる立ち位置も確立した今、お飾りと揶揄されたシュバイン公爵家はもういない。政治の場で絶対的な発言権を持つ公爵家へと変貌を遂げるまでに成長させたのだ。しかし、公爵家同士の結婚を可能にする方法だけは、どんなに手を尽くしても見つけることは出来なかった。
(あの時の絶望があったからこそ、正攻法だけでは夢を叶えることなど出来ないと知ったのかもしれないな)
エリザベスと快楽主義のウィリアム王子の婚約がハインツを悪へと落とした。
我が物顔でエリザベスの手を取るウィリアムを何度殺そうと思ったことか。エリザベスは私のものだと叫びたいのを必死に堪えてきた。この婚約が将来エリザベスと結ばれるための駒になると気づかなければ狂っていたかもしれない。
いいや、もう狂っているな。
エリザベスとウィリアム王子の婚約破棄が成立した今、あと少しで、全てを手に入れることができる。その布石は全て打ってきた。
(辛い思いをさせたが、エリザベスを貶める噂も広まった。あとは、嵌めるだけ……)
ウィリアム王子、あと少し私の掌の上で踊らせてあげますよ。
「エリザベス、愛している……」
この想いは眠るエリザベスには、まだ届かない。
「貴方が悪いのですよ。私の事など心に無いなどと可愛くない事を言うから、少々ひどくしてしまいました」
昨晩のエリザベスの痴態を思い出したハインツの顔に笑みが浮かぶ。
慣れない快楽に本気で泣くエリザベスに、嗜虐心が湧きあがったなどと言ったら、もっと嫌われてしまうな。
快楽主義のウィリアム王子の婚約者をエリザベスは十年もしていたのだ。手を出されている可能性も覚悟していたが、あの初心な反応は、嬉しい誤算だった。
キスですら、顔を真っ赤に染めていた。ウィリアム王子はエリザベスに手を出さなかったと見て間違いないだろう。
(薄幸女性にしか欲情しない変態で、本当によかったよ。その女性達のほとんどが、不幸せを装っていたとは、あの馬鹿王子は気づきもしないだろうがな)
もしウィリアム王子が、エリザベスの美しさに気づいていたら、あっという間に喰われていただろう。
「真っ新なエリザベスを手に入れることが出来た点だけは、あの馬鹿王子に感謝してやっても良いか」
汗で髪が乱れていようとも、美しさを損なわないエリザベスの相貌を見つめ、ため息をこぼす。
月のように輝く銀色の髪を撫でながら、吸い込まれそうなほど青く澄んだ瞳を想い出す。
あの瞳に自分が映った時の高揚感は一生忘れないだろう。
「クチュ……」
静かな部屋に淫雛なリップ音が響き、消えていった。
その噂を聞き確信したのだ。感情のないお姫様こそ、あの少女だと。
まさか、貴族令嬢だとは思わなかった。従者もつけず貴族令嬢が一人で泉に来るなど、本来であれば有り得ない話だ。だからこそ、ずっと町娘を探していたのだが、貴族令嬢であったなら見つかるはずない。
ただ、あの少女が貴族令嬢であるなら話は早い。しかも幸運なことに、ハインツはシュバイン公爵家の嫡男だ。相手が、公爵令嬢であろうと、婚約打診を無碍には出来ない。
喜びに打ち震えていたあの時のハインツは、まだ知らなかったのだ。公爵家同士の結婚が不可能であることを。
何度、公爵家嫡男の立場を呪ったことか。
何の力も持たないシュバイン公爵家を呪ったことか。
ただ、エリザベスへの想いを捨て去る選択だけは出来なかった。
この十五年でやれることはやった。
王太子殿下の学友から、側近へと昇りつめ、彼の右腕と呼ばれる立ち位置も確立した今、お飾りと揶揄されたシュバイン公爵家はもういない。政治の場で絶対的な発言権を持つ公爵家へと変貌を遂げるまでに成長させたのだ。しかし、公爵家同士の結婚を可能にする方法だけは、どんなに手を尽くしても見つけることは出来なかった。
(あの時の絶望があったからこそ、正攻法だけでは夢を叶えることなど出来ないと知ったのかもしれないな)
エリザベスと快楽主義のウィリアム王子の婚約がハインツを悪へと落とした。
我が物顔でエリザベスの手を取るウィリアムを何度殺そうと思ったことか。エリザベスは私のものだと叫びたいのを必死に堪えてきた。この婚約が将来エリザベスと結ばれるための駒になると気づかなければ狂っていたかもしれない。
いいや、もう狂っているな。
エリザベスとウィリアム王子の婚約破棄が成立した今、あと少しで、全てを手に入れることができる。その布石は全て打ってきた。
(辛い思いをさせたが、エリザベスを貶める噂も広まった。あとは、嵌めるだけ……)
ウィリアム王子、あと少し私の掌の上で踊らせてあげますよ。
「エリザベス、愛している……」
この想いは眠るエリザベスには、まだ届かない。
「貴方が悪いのですよ。私の事など心に無いなどと可愛くない事を言うから、少々ひどくしてしまいました」
昨晩のエリザベスの痴態を思い出したハインツの顔に笑みが浮かぶ。
慣れない快楽に本気で泣くエリザベスに、嗜虐心が湧きあがったなどと言ったら、もっと嫌われてしまうな。
快楽主義のウィリアム王子の婚約者をエリザベスは十年もしていたのだ。手を出されている可能性も覚悟していたが、あの初心な反応は、嬉しい誤算だった。
キスですら、顔を真っ赤に染めていた。ウィリアム王子はエリザベスに手を出さなかったと見て間違いないだろう。
(薄幸女性にしか欲情しない変態で、本当によかったよ。その女性達のほとんどが、不幸せを装っていたとは、あの馬鹿王子は気づきもしないだろうがな)
もしウィリアム王子が、エリザベスの美しさに気づいていたら、あっという間に喰われていただろう。
「真っ新なエリザベスを手に入れることが出来た点だけは、あの馬鹿王子に感謝してやっても良いか」
汗で髪が乱れていようとも、美しさを損なわないエリザベスの相貌を見つめ、ため息をこぼす。
月のように輝く銀色の髪を撫でながら、吸い込まれそうなほど青く澄んだ瞳を想い出す。
あの瞳に自分が映った時の高揚感は一生忘れないだろう。
「クチュ……」
静かな部屋に淫雛なリップ音が響き、消えていった。