初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる
「さて、陛下。お話というのは?」
「ベイカー公爵、人払いもした。ここからは我の友人として話してはくれないだろうか」
「えぇ、構いませんよ。では、ここからの話は陛下と私だけの内々の話というこで」
「あぁ。単刀直入に聞くぞ。今回の婚約の件、首謀者はハインツで間違いないか?」
「ははは、かなり焦ったようですね、あの書簡に」
「焦るに決まっておろう! 公爵家同士の婚約成立など前代未聞だ。そんな事を言い出したのは、どうせハインツなのであろう?」
「えぇ、そうですよ。ウィリアム王子との婚約が解消されてすぐでしたか、奴が我が家に来ましてね。エリザベスと婚約させろと。始めは、何馬鹿なことをと思いましたが、ハインツの本気に負けました」
「何!? あやつは本気でエリザベスと結婚するつもりがあるというのか?」
「そうだと思いますよ。何しろ、面と向かって脅しをかけてくるくらいですから。しかし、奴が本当にエリザベスから婚約了承の言質を取ってくるとは思いもしなかったですが。今回の婚約の件、エリザベスにすべての決定権を与えていましたのでね」
「先ほどの話、本当であったか。あのエリザベスが、ウィリアム以外の男に靡くとは……」
「陛下、はっきり言いますけど、エリザベスと婚約を解消したウィリアム王子に価値など無いですよ。エリザベスの婚約者だったからこそフォローもして来ましたが、解消された今、手を引かせていただきます。ベイカー公爵家は、中立の立場を貫くつもりではありますが、ハインツの出方次第では考えを改めざる負えない事もお忘れなく」
ハインツの出方次第で、グルテンブルク王国の貴族社会の均衡が大きく変わる。いいや、変わることは確実だ。
ベイカー公爵家が中立を貫くつもりでも、この婚約成立が周知されれば、周りはそうは見てくれない。ベイカー公爵家は、王太子派となったとみなされる。
多くの中立派の貴族、ひいては今まで第二王子派だった貴族ですら、王太子派へと流れるだろう。
そうなれば、第二王子派を潰す流れになる事は目に見えている。しかし、それを許す側妃ではない。あの欲深い側妃諸共、追放でもしない限り、内乱が起きる可能性すらある。
その事をあのハインツが理解していないわけがない。だからこそ、何度も第二王子派を潰す機会があったにも関わらず、王太子派筆頭のシュバイン公爵家に動きはなかった。
ハインツはいったい何を考えている。
「なぁ、ベイカー公爵よ。やはり、ウィリアムを切り捨てる選択を考えねばならんだろうか?」
「陛下も人の子。ご自身の子を切り捨てる選択をためらわれるのは仕方ございません。しかし、陛下は王なのです。我が国の安定を真っ先に考えねばならぬお立場です。第二王子派の圧政に、地方貴族が動くやもしれません。いつの世も、真っ先に影響を受けるのは下々の民です。ご自身の選択に後悔なきよう」
「ハインツは、王家を潰すつもりがあると思うか?」
「さぁ? ただ、奴の望みは違うところにあるように感じます。ハインツが、本気で国家転覆を企むなら、こんな回りくどい方法は取らないでしょう。さっさと、実行に移していますよ」
「確かにな……」
数年前に起きたある事件を思い出し、ベイカー公爵は苦笑いを浮かべる。
ウィリアム王子とエリザベスの婚約成立と同時に起こった隣国使節団とのトラブル。あれの首謀者は、ハインツで間違いない。あの時、王太子殿下が放った言葉を今でも覚えている。
『ハインツを敵にまわしたな。ウィリアムの人生も終わったか……』
事後処理に追われていた殿下が死んだ目をして呟いたあの言葉を聞いていた者がどれほどいたことか。あれ以来、ハインツに逆らう者が急激に減ったのは言うまでもない。
(さて、奴は公爵家同士の婚姻を可能にするカードをどう手に入れるつもりなのか? はたまた、もう手に入れているのか……)
「ベイカー公爵、人払いもした。ここからは我の友人として話してはくれないだろうか」
「えぇ、構いませんよ。では、ここからの話は陛下と私だけの内々の話というこで」
「あぁ。単刀直入に聞くぞ。今回の婚約の件、首謀者はハインツで間違いないか?」
「ははは、かなり焦ったようですね、あの書簡に」
「焦るに決まっておろう! 公爵家同士の婚約成立など前代未聞だ。そんな事を言い出したのは、どうせハインツなのであろう?」
「えぇ、そうですよ。ウィリアム王子との婚約が解消されてすぐでしたか、奴が我が家に来ましてね。エリザベスと婚約させろと。始めは、何馬鹿なことをと思いましたが、ハインツの本気に負けました」
「何!? あやつは本気でエリザベスと結婚するつもりがあるというのか?」
「そうだと思いますよ。何しろ、面と向かって脅しをかけてくるくらいですから。しかし、奴が本当にエリザベスから婚約了承の言質を取ってくるとは思いもしなかったですが。今回の婚約の件、エリザベスにすべての決定権を与えていましたのでね」
「先ほどの話、本当であったか。あのエリザベスが、ウィリアム以外の男に靡くとは……」
「陛下、はっきり言いますけど、エリザベスと婚約を解消したウィリアム王子に価値など無いですよ。エリザベスの婚約者だったからこそフォローもして来ましたが、解消された今、手を引かせていただきます。ベイカー公爵家は、中立の立場を貫くつもりではありますが、ハインツの出方次第では考えを改めざる負えない事もお忘れなく」
ハインツの出方次第で、グルテンブルク王国の貴族社会の均衡が大きく変わる。いいや、変わることは確実だ。
ベイカー公爵家が中立を貫くつもりでも、この婚約成立が周知されれば、周りはそうは見てくれない。ベイカー公爵家は、王太子派となったとみなされる。
多くの中立派の貴族、ひいては今まで第二王子派だった貴族ですら、王太子派へと流れるだろう。
そうなれば、第二王子派を潰す流れになる事は目に見えている。しかし、それを許す側妃ではない。あの欲深い側妃諸共、追放でもしない限り、内乱が起きる可能性すらある。
その事をあのハインツが理解していないわけがない。だからこそ、何度も第二王子派を潰す機会があったにも関わらず、王太子派筆頭のシュバイン公爵家に動きはなかった。
ハインツはいったい何を考えている。
「なぁ、ベイカー公爵よ。やはり、ウィリアムを切り捨てる選択を考えねばならんだろうか?」
「陛下も人の子。ご自身の子を切り捨てる選択をためらわれるのは仕方ございません。しかし、陛下は王なのです。我が国の安定を真っ先に考えねばならぬお立場です。第二王子派の圧政に、地方貴族が動くやもしれません。いつの世も、真っ先に影響を受けるのは下々の民です。ご自身の選択に後悔なきよう」
「ハインツは、王家を潰すつもりがあると思うか?」
「さぁ? ただ、奴の望みは違うところにあるように感じます。ハインツが、本気で国家転覆を企むなら、こんな回りくどい方法は取らないでしょう。さっさと、実行に移していますよ」
「確かにな……」
数年前に起きたある事件を思い出し、ベイカー公爵は苦笑いを浮かべる。
ウィリアム王子とエリザベスの婚約成立と同時に起こった隣国使節団とのトラブル。あれの首謀者は、ハインツで間違いない。あの時、王太子殿下が放った言葉を今でも覚えている。
『ハインツを敵にまわしたな。ウィリアムの人生も終わったか……』
事後処理に追われていた殿下が死んだ目をして呟いたあの言葉を聞いていた者がどれほどいたことか。あれ以来、ハインツに逆らう者が急激に減ったのは言うまでもない。
(さて、奴は公爵家同士の婚姻を可能にするカードをどう手に入れるつもりなのか? はたまた、もう手に入れているのか……)