仕事人侍女の後宮セカンドライフ~新しい主人を選ぶはずが、寵姫に選ばれました~

4 道化の言葉遊び

 人が集まるところに道化は現れる。奇怪な色に染め上げた衣装をまとい、嘘か真かわからない言葉で人を惑わす。
「どなたか私の言葉遊びに付き合ってくださる方はおらんかね?」
 彼らは誰にも庇護されない一方で、誰にも支配されない自由を持っていた。その潔さに尊敬に似た思いを持っていて、ソフィアは道化に近づく。
 道化の周りはぽっかりと空いた穴のように人が遠ざかっていた。奇怪なまなざしで姫たちを見回す道化は、平常な心なら近寄りたくはないのだろう。
「道化殿、訊きたいことがある」
 ソフィアは少し、奇怪な自覚があった。ソフィアが進み出て問うと、道化は縁取りのされた大きな目でソフィアを見返す。
「お嬢さんが栄華を手にできるかの答えかな?」
 ソフィアは少し考えて問いを続けた。
「手より、足に力があるか知りたい。私は自分の足で望むところまで歩き通せるだろうか?」
「ふむ」
 道化は目をくるりと動かしてソフィアを眺めると、手を差し伸べて言う。
「では見せてくれますかな」
「いいだろう」
 ソフィアは道化の前に立って迷わず裾を引き上げる。
 少し北の国々では、異性に足をさらすなど言語道断のところもある。周囲の姫たちは目を歪め、ソフィアの行為をけがらわしいものにするように見た者もいた。
 けれど道化はソフィアの足を見て目を細めると、感心したようにつぶやいた。
「……実に力強い足だ。確かに自信をお持ちなのもうなずける」
「足は健康の基本だ。朝夕と鍛錬を欠かさない」
 女性に対するものとしては失礼かもしれない褒め言葉を、ソフィアはうなずいて聞いていた。
 ソフィアは裾を元通りに戻すと、道化に問いを重ねる。
「どうだろうか。私の足は、新しい主のところまでたどり着けるだろうか?」
 道化はしばし考え込むと、ぽつりとつぶやく。
「そうだね、選ぶ道によるが……」
 ふいに道化はにやりと笑って言った。
「……お嬢さんは、歩き出してしまった。そうなった以上、辿り着くまで歩き続ける性分に見えるよ」
 ソフィアは少し虚を突かれた顔をしたが、彼女も口元に笑みを浮かべてみせた。
「そうしたいものだ」
 ソフィアは礼を言って、道化の手に銅貨を手渡したのだった。
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