麗しの狂者たち【改稿版】
「……あ、亜陽君?やっぱり、あの時八神君と白浜さんがあの場にいたのは偶然ではなかったの?」
十中八九それで間違いないと思うけど、少しでも否定して欲しい気持ちに、私は恐る恐る彼に尋ねる。
「あいつには警告するつもりだったんだけど……今度はもっと上手くやるからね」
しかし、願いも虚しく。
亜陽君は全く悪びれた様子もなく、清々しい表情でそう答えた。
それが少しだけ狂気じみているように見えて。
ほんの僅かに、背筋がぞくりと震えた。
「ね、ねえ亜陽君。そんな事しなくてもいいんだよ。私は亜陽君一筋なんだし、それに白浜さんとはもう……」
「それじゃあ、その手に持ってるクマのぬいぐるみはなに?」
兎に角、これ以上彼女とは繋がって欲しくなくて、懇願した矢先。
食い気味に言われた亜陽君の鋭い指摘に、今度は肩が大きく震えた。
「……え……えっと。これは、その……。八神君がクレーンゲームで取ってくれた景品で……」
それから、背徳感が一気に押し寄せてきて、私は言い淀みながら、つい視線を逸らしてしまう。
すると、次の瞬間。
抱えていたクマの頭を突然亜陽君は鷲掴みにして、私からそれを勢い良く奪い取った。
あまりの唐突な出来事に、私は一瞬何が起きたのか理解出来ず、その場で狼狽える。
「これは美月にとって不要なものだよね?だから、俺がしっかり処分するからね」
そして、今日一番の爽やかな笑顔を浮かべながら、亜陽君は優しい声で問い掛けてくる。
そこから感じる有無を言わさない圧力と、静かな激情。
私は段々と血の気が引いていき、それ以上何も言うことが出来ず、無言で首を縦に振った。