麗しの狂者たち【改稿版】



「あら、美月ちゃん。少し見ない間にまた綺麗になったわね」  
 
そして、迎えた会食の日。

料亭に着いてから案内された場所は、毎年変わらず奥にある少し広めのお座敷部屋。

そこの襖を開けるや否や、既に中で待っていた亜陽君のお母さんが私を見て優しく微笑みかけてくれる。

「お久しぶりです。皆さんもお元気そうでなによりです」

一先ず、当たり障りのない挨拶を交わして、私は両親の後に続き、長テーブルの入り口前の席に腰をかけた。

座る場所も例年通り。
部屋に入って向かいの席が九条家で手前側が倉科家。

それから奥から順に両家の主人と妻、そして私と亜陽君。

お互い一人っ子同士なので、私はいつものように亜陽君の前の席に座ると、彼と目が合い、口元を緩ませた。


今日の亜陽君も一段と格好いい。

普段の制服姿とは違い、上下黒色スーツに深緑色のネクタイ。

前髪も上げて少し固めているので、かなり大人っぽい雰囲気に毎度見惚れてしまう。

そんな私の視線を亜陽君は嬉しそうに受け止めてくれて、口パクで「可愛い」と返してくれた。

それだけで気持ちが舞い上がってしまい、顔の筋肉が緩みそうになるのを何とか必死で堪える。

それから軽い世間話をしていると、程なくして料理が運ばれてきて、本格的に会食がスタートした。


会話の流れも大々決まっている。

初めはお互いの経営話から始まり、その次はそれぞれの身の上話。

そして、私と亜陽君のこと。


学校生活や生徒会役員の話。
そして、大学進学と。

父親から言われた通り、最後は進路のことで話題は持ちきりになり、私は予め用意した自分の考えを両家の前で話した。

と言っても、特にやりたいことなどなく、両親も亜陽君と同じ大学に行くという目標があれば、それ以上のことは何も求めなかった。

だから、この場にいる全員が私の将来について関心を示すことはない。

ただ、亜陽君のお嫁さんになり、家庭に入って子供を産んでくれればそれでいい。

まるで昭和時代のような考え方が、ここでは当たり前のように健在しているのだ。


それから私の話はほんの数分で終わり、後の時間は全て亜陽君の話題で埋まる。

私も彼の将来については大いに関心があるので、特段気にすることなく、黙って亜陽君の話に耳を傾けた。
< 105 / 264 >

この作品をシェア

pagetop