麗しの狂者たち【改稿版】






「つまるところ、それは恋だな」


「……は?」


今日一日の仕事が終わり、帰り支度をしながら何気なくこれまでのことを話してみた途端。

唐突に言われた店長の一言に、俺は思わず動かしていた手を止める。

「遊びの人間に対してそこまで感情的になるか?くだらない御託はいらねえからさっさと認めればいいだろ。いちいちめんどくせー奴だな」

そして、更なる追い討ちをかけられ、痛い所をぐさぐさと容赦なく突き刺してくる店長に対し、悪態を付いた。

「なんでだよ。そもそも人の言いなりになるような人間なんか好きになるか」

「けど、その子だけなんだろ?校内で唯一お前を注意する人間は。叱られることが本望な奴にとって、好きになる理由はそれで十分じゃね?このドM気質が」

それから、思いっきり抵抗してみたら、倍の仕打ちが返ってきて。
ぐうの音も出なくなった俺は、再び悪態を付いて店長を思いっきり睨みつけた。



「えー、まさか来夏が恋バナしてんの?超珍しいー」

すると、今度は更にややこしい人間に絡まれ、益々眉間に皺が寄る。

(かける)さん帰ったんじゃないんすか?」

つい先程俺より一足早く上がったくせに、何故かここでちゃっかり人の話を盗み聞きしている四つ上の先輩。

普段からよく弄られるので、この店の中では一番聞かれたくない人物だけど、こうなっては仕方ないと。

俺は露骨に嫌がる表情を見せて、深い溜息を吐いた。
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