麗しの狂者たち【改稿版】
「……あ。倉科美月だ」
すると、これまで猫撫で声でしつこく纏わり付いていた女の声色が突然変わり、低い声でポツリと呟いたその名前に思わず反応してしまう。
それから、女の視線の先に目を向けると、ジャージ姿の美月が中庭で誰かと話している姿が視界に映った。
「あたし、この前図書室で友達と話してたら、あの女に注意されたんだよね。副会長だが何だか知らないけど、あの九条君と許婚なんてマジで腹立つわー」
暫く放置していたら、勝手に一人でキレ始めたので、俺は引き続き女には構わず美月をじっと見つめた。
これまで人付き合いは全て損得でしか考えてこなかった。
だから、自分にメリットがないと判断した人間はこうして使い捨て状態。
その極端な排他的思考は、如何なものかと。
我ながら疑問に感じることはあるけど、長年の考えはそう簡単に変えることが出来ない。
つまり、俺がここまであの女に拘るのは、無意識に価値を感じているからだろうか。
始めはただの興味本位だったけど、心のどこかで求めているものがあるのかもしれない。