麗しの狂者たち【改稿版】
◇◇◇



「はあー……疲れました。たった二時間くらいですけど、働くってこんなに重労働だったんですね」

あれから、私達は出店者用の休憩所に案内され、渡された飲み物で一息つこうと椅子に座った途端、渚ちゃんの特大な溜息が部屋中に響く。

「そうですね。でも、私は文化祭みたいで結構楽しかったですよ。渚ちゃんもここまで付き合って下さって本当にありがとうございました」

私も今までにない疲労が押し寄せてくるけど、まるで運動をした後のような爽快感と達成感で心は満たされ、この疲れも心地良いと思えてくる。

それも二時間しか働いてないからそう感じるのかもしれないけど、兎にも角にも、自分の知らない世界に足を踏み入れるというのは、こんなにも新鮮で気持ちが良いものなんだと。つくづくそう思った私は、暫くこの心地良さに身を委ねた。

こうして少しだけまったりした時間を過ごすと、程なくして渚ちゃんは御手洗へと向かい、がらんとしたテントの下で私は一人ゆっくりとお茶を飲む。

「あ、良かった。まだ居た」

すると、入れ違いで八神君が休憩所に入ってきて、不意を突かれた私は思わず背筋がピンと伸びてしまった。

「お疲れ様。八神君も休憩?」

「ああ。客も落ち着いてきたし、暫く休んでいいってさ」

そう言うと、八神君は頭に巻いていたタオルを外し、自然と私の隣に座ると、手に持っていたスポーツ飲料水を一気に飲み干した。

「八神君って普段は破茶滅茶なのに、ここでは素直で真面目なんだね」

そんな彼を横目に、これまで先導をきって機敏に働いていた姿を思い返しながら少し嫌味を交えて突っついてみると、不服そうな表情で八神君は軽くこちらを睨んでくる。

「当たり前だろ。学校とバイト先じゃ立場が全然違うのは俺でも分かるわ」

そして、普段の彼からは想像出来ない程の至極まともな回答に、心底関心すると、これまでの最悪なイメージが少しだけ覆されていく。

「それより助かったよ。始めはあんたの戯言かと思ったけど、意外に動き良くて驚いた。これ店長がお礼にって。あのイかれた僕女と一緒に是非店に来て欲しいんだと」

まさか八神君からお褒めの言葉を頂けるとは思ってもいなかったので、意表を突かれた私は一瞬動きが止まるも。自分の働きぶりを認められたことが素直に嬉しくて、私は差し出されたお店の招待券を快く受け取った。

「こちらこそ、私の我儘を聞いてくれてありがとう。それと、八神君が言ったこと少し分かるような気がする。初めてのことを経験するってこんなにも楽しくて、満ち足りた気持ちになれるんだね」

そして、溢れ出る喜びを彼にも伝えたくて、満面の笑みを向けると、何やら真顔でこちらを凝視してくる八神君。

「……あ、あの?どうしたの?」

一向に反応がなく、まじまじと見つめられていることに戸惑いを感じ始めていると、不意に肩がくっつく程の距離を詰められ、不覚にも心臓が小さく跳ね上がる。
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