麗しの狂者たち【改稿版】
すると、突然腰に手を回された途端。
勢いよく引き寄せられ、襲ってきた危機感に思わず体が強張る。

「な、急になに?」

まさかこんな一目がつくような場所で何かされるとは思いもよらず。

完全に油断していた私は顔を引き攣らせながら恐る恐る尋ねてみると、そんな私を嘲笑うように八神君は口元を緩ませてきた。

「うーん。なんとなく?」

そして、何とも彼らしい身勝手な返答に頭の中が益々混乱してくる。


いや、何故このタイミング?

なんとなくって……。なんとなくこうなった意図が全く理解出来ないんですけど。


「流石に場をわきまえて。こんな人気の多い場所で迫られても困るから!」

兎に角、一刻も早く離れようと八神君の体を押し返すも。
びくともしない彼に、焦りと緊張で鼓動が徐々に速さを増していく。

「じゃあ、人が居なければいいんだ?」

そんな私を嘲笑うかのように。
悪戯な笑みを浮かべて揚げ足を取ってくる八神君に、私は堪忍袋の緒が切れた。

「もう、本当いい加減に......」

だから、猛反発しようと口を開いた直後。
不意打ちの如く唇を塞がれてしまい、まさかこのタイミングでキスをされるとは予想だにもしていなかった為、突然のことに頭が真っ白になる。


それから、ようやく唇が解放され、相変わらず配慮も何も無い雑な扱いをされ、悔しさで涙が滲んできた。


「酷い八神君。何でこんなことするの?」


いくら遊びとはいえ、やっていい事と悪い事がある。

それくらいの分別は付けそうなのに、なぜ彼はこうも私に執着するのだろう。


「別に理由なんてねーよ。あんたにキスしたいからする。ただそれだけ」

すると、返ってきた答えはいかにも彼らしい。
なんとも単純で快楽的で本能的な内容に呆れた私は、がくっと肩を落とす。
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