麗しの狂者たち【改稿版】
こうして気分が乗らない中、休憩に入った同じ卓球チームと白熱する試合を眺めていると、突如校庭から聞こえてきた黄色い歓声。

何事かと外に目を向けると、隣にいる女子達が騒めき始め、何となくその要因が分かった気がした。


「八神君が今サッカーの試合してるって」

「マジか。彼が運動する姿なんてめっちゃ、レアじゃん!球技大会今年は参加するのかな?」


やっぱり。
八神君は隣のクラスなので、こうして体育の授業がよく被るけど、普段彼の姿を見ることは殆どない。

単位の為にその他の授業は適度に出てるらしいけど、体育、音楽、美術の時間に彼が現れるのはレア中のレアなんだとか。


去年は体育祭と文化祭には参加していたらしいけど、その他のイベントは全て不参加だったので、てっきり今年も同じかと思っていたのに。

あの八神君が真っ当に運動しているだなんて……。


…………ちょっと見てみたいかも。


ミーハーの一員になるのは少し癪に触るけど、貴重な姿を見てみたい好奇心に敵うことが出来ず、私も女子達の後に続いて校庭へと向かう。


すると、コート脇には既に沢山の人集りが出来ていて、少し離れたところで試合の様子を伺うと、確かにそこには機敏に動く八神君の姿あった。


しかも、元々経験者なのか、或いは運動神経が良いからなのか。周りよりも反応が良く、彼にボールが回ってくることが多い気がする。

そして、普段の姿からは想像も出来ない程生き生きとした表情で敵陣へと攻め込んだり、声を出してチームを鼓舞したり、笑ったり、時たまふざけたりして。

いつも周りから恐れられているのに、何だかんだこうしてクラスに溶け込んで、普通に学校生活を満喫しているように見えて。

それでいて、好き勝手に遊んで、自分が思うがままに生きて。それなのに、成績はしっかりと上位を維持しているなんて。

私は九条君と釣り合うために、これまで必死になって努力してきたのに。


それなのに、なんて羨ましくて、ずるいんだろう。


気付けば心の中は嫉妬で埋もれていて。
そんな卑しい自分に嫌悪感を抱き始めたところ、昨日渚ちゃんに言われた言葉がふと脳裏をよぎる。


これまで決められたルート以外のことをしたいなんて考えもしなかったし、思うことすらいけないと感じていた。

けど、渚ちゃんのお陰でそれは違うと思い始めるようになってきて、心の中がざわめき立つ。


“私の人生は私だけのもの”


それから、その言葉が強い引き金となり、これまで振り子のように揺れ動いていた思いが、ある一定の位置でピタリと止まる。


そして、一つの決断に至ると、私は小さく拳を握りしめ、踵を返して体育館の方へと引き返した。
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