麗しの狂者たち【改稿版】
「す、すごいですっ!!希少部位のお肉がこんなに沢山っ!てか、シャトーブリアンがここで食べれるとはっ!?しかも、韓国本場の丸ごとシマチョウまで!?この店センス良過ぎじゃないですか!?」
テーブルに次々とお肉が並べられた途端。
つい先程まで不満気だった表情が180度変わり、興奮しながら目を輝かせる渚ちゃんが可愛くて思わず小さく吹き出してしまう。
「君よく知ってるね。店長こだわり強いから、結構コアな肉好き客多いんだよねー」
すると、そんな彼女の反応を嬉しそうに眺めながら、茶髪の男性は鉄板に火を付け始めていく。
「とりあえず乾杯するか。それじゃ、この前のイベントお疲れー」
八人掛けテーブルの奥に座っている店長の掛け声に続き、乾杯の声が重なる。
こういう席は生まれて初めてなので、私と渚ちゃんも見よう見まねで、たどたどしくオレンジジュースの入ったグラスを差し出した。
「流石に八神君もジュースなんだね」
そして、目の前に座る八神君のグラスがふと視界に入り、思わず皮肉がぽろりと溢れ落ちる。
「ここでは飲ませてくれねえからな。……たく、俺に酒の味を教えたくせに」
八神君は苦虫を噛み潰した表情で愚痴を零すと、コーラを一口に飲み、隣に座る店長を軽く睨みつけた。
「それにしても、来夏がこんな真面目そうな子達と知り合いなんてな。大体お前と絡む女ってヤバい奴ばっかじゃん」
「それな。イベントの時も随分助けて貰ったし、本当にありがとう。君達のお陰で怪我も酷くならずに済んだし、売り上げも達成出来たよ」
そう満面の笑みでお礼を言ってくれたのは、あの時火傷を負った、クリっとした目が特徴的な若い男性の店員さん。
「いえ、そんな。こちらこそ無理を聞いて頂き、ありがとうございました」
あれは人助けと言うよりも、半ば自分の為にやったことなのに。
改めて感謝をされると、何だかこそばゆい気持ちになり、私はつい視線を下へと落としてしまった。