麗しの狂者たち【改稿版】
「そういえば、来夏は店長みたいになりたいんだろ?もうすぐ受験だし、行きたい大学とか考えてんの?」
すると、何気なく尋ねてきた茶髪男性の質問に、思わず眉がぴくりと反応する。
「あー……まあ、それなりに候補はあるっすよ。今の偏差値なら選びたい放題って言われたから、家から近い所になるんじゃないですか?」
「なにその人事みたいな感じ。てか、そんなナリして頭良いとか嫌味の塊でしかないよな」
「先輩が単にバカ過ぎるだけじゃねっすか?」
そして、またもや遠慮ない先輩後輩の仲睦まじい詰り合いが始まる中。
とても気になるフレーズが耳に残り、私は落ち着かない様子で二人の会話の隙を狙った。
「あ、あの。八神君は自分のお店を出したいの?」
それから一息ついたところで、すかさず八神君に質問をぶつけてみる。
「店を出したいっていうか、経営者になりたい。実家のこともあるし、どの業界に入るかはまだ分からないけど、今はその知識を徹底的に学びたい」
そんな私の問い掛けに躊躇いなく答えた彼の目は、今までに見たことがない程真っ直ぐで。
これまでの振る舞いでは考えられないくらい芯の通った考え方に、面を食らってしまった。
同時に、屋上で見た分厚い参考書のことがふと脳裏に浮かび上がる。
そこから感じた自分との格差。
正直、これまで非行を繰り返す八神君をどこかで軽蔑していた。
そして、そんな彼と比較して、亜陽君の許嫁として奮闘する自分の価値を無意識に上げていた。
でも、蓋を開けて見れば、それは全くの見当違いで。
八神君には夢があって、その目的のために実家を離れ、バイトして、独学で勉強して。
私よりも何十倍の行動力があって、強い意志がある。
私にないものを全て持っている。
そんな彼の本質を見抜けないまま、これまで抱いていた自尊心は、ただの驕りでしかなかったんだと。
そう気付かされたようで、私は段々と羞恥心が混み上がってきた。