麗しの狂者たち【改稿版】
こうして、進路の話はここで終わると、今度は迷惑な常連客の話題で盛り上がり、気付けば時間はあっという間に過ぎ去っていった。
そして、開店時間三十分前となったところで会はお開きとなり、私達は招待してくれた感謝の気持ちを込めて、後片付けの手伝いを買って出ることにした。
「それにしても、君達みたいな可愛い子入ってくれないかなー。店長元ヤンで柄悪いから、若い女の子はみんな面接で辞退するんだよねー」
一通りテーブルを片してから、私は積み上がった食器を洗っていると、隣で開店準備をしている茶髪男性が深い溜息を吐きながら愚痴をこぼし始める。
「ねえ、短期でもいいからうちどう?体験だけでもいいからさ。賄い付きだし、興味が湧いた時にでも俺に連絡くれれば……ぐはっ!」
それから、いつの間にやら話はバイトの勧誘へと変わり、どう反応すればいいのか困惑した矢先。
間髪入れずに、側でお肉を切っていた八神君の拳が茶髪男性の脇腹に入り、不意をつかれた男性は涙目で地面にうずくまった。
「先輩、これ運んでもらっていいっすか」
一方、八神君は何事もなかったように、しれっとした態度で切ったお肉を差し出す。
「あのさ。毎度のことだけど、頼むからもう少し手加減して。お前と違って俺非力だから」
「それなら、尚のこと鍛えた方がいいっすね」
どうやら二人にとってこれが日常茶飯事なのか。
殴られた男性はさほど怒ることなく、再び始まった二人の詰り合いを呆然と眺めていると、ふとある考えが頭をよぎった。