麗しの狂者たち【改稿版】



__翌日。


私は十分な睡眠が取れないまま、ひとまず顔を洗いに洗面台へと向かう。

鏡で自分の顔を確認すると、睡眠不足でクマが酷く、しかも泣いたせいで若干目も腫れている。

こんな絶不調なコンディションの中、今日は生徒会による朝の挨拶運動があるので、こんな顔を全生徒の前で晒すのは出来れば避けたいところだ。

そして、改めて鏡に目を向けると、唇がガサガサに乾燥していて、そこから昨日の出来事がふと脳裏に浮かぶ。


“キスをし過ぎると唇が荒れる。”

そんな話を昔どこかで聞いたことがあったような。

当時はそれ程のキスとは一体どんなものなのか、思春期ながらにとても気になっていたけど、まさかそれが今になって分かるとは。

しかも、亜陽君ではない別の男性によって知らされるなんて言語道断。

兎に角、八神君とのキスはなかったことにする為記憶から消し去ろうとするも、そう簡単に出来るはずもなく。

無理矢理体に刻み込まれた感覚と、逃げても逃げても襲って来る冷たい口ピアスの感触がとめどなく私の脳を刺激してきて、体は正直に反応してしまう。


……だめ。
これじゃあ、私亜陽君に何も言えない。

あれから冷静になって考え、彼の真意を確かめようと決めたけど、結局自分にも後ろめたさがあっては相手を強く問いただすことなんて出来ない。

とりあえず、先ずは自分の気持ちを整理するのが先決だと。
そう確信した私は、頭を切り替えるために、もう一度冷たい水で顔を洗うことにした。
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