麗しの狂者たち【改稿版】
「……あ」
すると、丁度旧校舎から出てきた白浜さんとばったり遭遇してしまい、私はまるで蛇に睨まれた蛙の如く、体の動きが石像のようにピタリと止まってしまった。
そこに八神君の姿がないのは唯一の救いだったけど、若干制服が乱れている所を見た限りだと、事が済んだ後という事だろうか。
そう思うと再び胸の奥がズキズキと激しく痛みだし、表情が強張ってしまう。
そんな私を見て、白浜さんは無表情でこちらの方へゆっくりと近付いてくる。
「まったく。あなたに覗きの趣味があるなんて驚きだわ」
そして、悪意を含んだ笑みを浮かべながら、私と対峙するように立ち止まった。
「もしかして、気付いて……」
「あれだけ盛大な足音立てられたら、誰だって気付くわ」
まさかと思い、恐る恐る尋ねた途端。
物凄く呆れ顔で食い気味に突っ込まれてしまい、自己嫌悪に陥る私。
「まあ、別にどうでもいいけど。それ以上に彼が最高だったから。九条君は優しかったけど、私的には荒々しい彼の方が好みかも」
一方、勝ち誇ったような目で仕掛けられた彼女の挑発にまんまと乗せられた私は、怒りが急激に頂点へと達し、体が徐々に震えだしてきた。
「もしかして、わざとなんですか?わざと彼らに近付いているんですか?」
始めは亜陽君に動かされているのかと思っていたけど、状況を楽しんでいる様子を見る限り、そうは思えない気がして。
私も負けじと彼女に食ってかかった瞬間、白浜さんの顔が酷く歪み、突然私の顎を掴むと無理矢理引き上げてきた。
「よくもまあそんな被害者面出来るわね。偽善ぶって、結局九条君の気持ちを踏み躙って八神君に翻弄されているなんて、あなたも相当最低な女じゃない。寧ろ堂々としている私の方がまだマシなんじゃないかしら?」
そして、容赦ない彼女の痛烈な言葉によって、これまで築き上げてきた硬い防御壁が、呆気なく崩れ落ち始める。
……ああ、そうだ。
彼女の言う通りだ。
そんなこと、自分でもよく分かっているけど、人から言われると改めて思い知らされる。
だから、私が彼女にとやかく言う筋合いはない。
全部事実なのだから、全て受け止めなければ。
一向に反応がないことに諦めたのか。
白浜さんは興醒めしたように小さく溜息を吐くと、私から手を離し踵を返す。
「それじゃあ、私はこれで」
そして、何事もなかったように歪んだ表情から一変して、優雅な微笑みを見せると、颯爽とこの場を後にした。