麗しの狂者たち【改稿版】
彼女が去ってからも私は暫く放心状態のまま立ち尽くし、なかなか動くことが出来ない。
突きつけられた事実を一つ一つ消化しようにも、全てを受け止める事が出来ず途方にくれる。
「美月?」
すると、続けて旧校舎から八神君も出てきて、そこで私はふと我にかえった。
彼から仄かにタバコの匂いが漂ってくるということは、事が終わった後に一服でもしていたのだろうか。
相変わらず、とことん彼の風紀が乱れていることに呆れ、そんな彼にここまで絆されている自分にも心底呆れてくる。
「八神君またタバコ吸った?ここからでも匂いが良く分かるよ。本当にどうしようもない人ね」
それから、次第に怒りが沸々と湧き起こり、私は顰めっ面をしながら色々な意味を含めて最後の言葉だけやけに強調してみた。
「あんたの口煩さも未だ健在だな」
それなのに、全く響いてないどころか。
何故か満足そうな表情を浮かべながら、私にそっと手を伸ばしてくる。
「嫌、触らないでっ!」
けど、その手を咄嗟に振り払うと、八神君は突如見せてきた私の拒絶反応に、驚愕の眼差しを向けた。
「どうしたんだよ。…………まさか、あの時聞こえた足音って美月だったのか?」
すると、どうやら私の存在は彼にもバレていたようで。
もう少し静かに立ち去れば良かったと後悔するも、この際もうどうでもいい。
「八神君は女の人なら誰でもいいの?八神君にとって、キスはなんでもないことなの?」
なんだろう。
この昼ドラみたいな会話は。
まるで嫉妬に狂った人のようで、なんか嫌だ。
…………いや、違う。
まるでじゃなくて、正に今私は狂いに狂いまくっている。
「保健室の時もその気にさせるようなこと言って。私はそれにまんまと堕ちて、訳分かんなくなって本当にバカみたい」
こんな醜い姿、絶対に見せたくなかったのに。
止めどなく溢れ出てくる黒い感情を押さえる事が出来ず、意思に反して涙と共に本音がボロボロと零れ落ちる。
「だから、もう近付かないで!本気じゃないなら、これ以上掻き乱さないでよっ!」
そして、激情のまま抱えていた蟠りを外に思いっきり吐き出すと、彼の反応を待たずして勢いよくこの場から駆け出した。