麗しの狂者たち【改稿版】
暫しの間流れる沈黙。
お互い目で訴えるように見つめ合うこと数十秒くらい。
やはりここは言葉で言わないとはっきり伝わらないという事がよく分かり、私はもう一度彼の真意を確かめようと口を開いた時だった。
言葉を発するよりも先に八神君に唇を突然塞がれてしまい、不意打ちのキスに私は頭の中が真っ白になってしまう。
普段はそこから遠慮なく舌がねじ込んできて無遠慮にかき乱してくるけど、今回は触れるだけの優しいキスを二、三回すると、八神君は静かに私から唇を離した。
「言われてみればそうだな」
それから、これまで険しかった表情が一気に緩むと、八神君は私の唇を愛おしそうに親指でなぞり始める。
「美月、愛している。もうどうにかなりそうなくらいに」
そして、想像以上の真っ直ぐな彼の気持ちをどう受け止めればいいのか分からず、狼狽えてしまう。
「な、なんでそこまで?私八神君に鬱陶しがられた記憶しかないんだけど?」
そもそもの出会いも最悪だったのに。
一体何処に気に入られる要素があったのか全く分からない。
「なあ、あんたはまだ俺に理由を聞くのか?それがそんなに大事なのか?好きだから好きでいいじゃねーかよ。いちいちめんどくせえな」
けど、八神君は呆れたように深い溜息をはくと、若干苛立ちを見せながらも、今度は私の額に、頬にとゆっくり口付けを落としていく。
いやいや。
理由くらい教えてくれてもいいでしょうに。
何だか誤魔化されているようで、何となく腑に落ちない。
ロマンチックなシチュエーションを思い描いていたけど、本能的な彼にそれを求めても無駄だと感じた私は、これ以上追求することは諦めて、素直に八神君の熱に身を委ねた。
「それよりも、美月だって人のこと言えねーだろ。これだけ俺に好き勝手にされて、それを全部受け入れて、嫉妬までして。いい加減はっきりさせろよ」
すると、今度は八神君の反撃に、心がぎくりと反応する。