麗しの狂者たち【改稿版】
◇◇◇



「美月おはよう」


それから誰よりも早く登校し、校門前で待機していると、遅れてきた亜陽君が私の姿を捉えるや否や小走りで駆け寄ってきた。

「……あ。お、おはよう亜陽君」

朝活がある以上、亜陽君とはどうしたって顔を合わせなくてはいけないので、私は小さく気合を入れてから、ぎこちなく挨拶を返す。

「どうしたの?朝活の日は一緒に登校しようって決めたよね?」

すると、イレギュラーな私の今日の振る舞いに、亜陽君は怪訝な表情で痛い所をついてきた。


生徒会の仕事で朝が早かったり帰りが遅かったりする時は、必ず一緒に登下校していた私達。

だから、今日のように私が亜陽君を置いて先に登校するのは初めてのことで。
というか、私から亜陽君を避けるような行動をしたのは未だかつて一度もなかったかもしれない。

そのせいだろうか。
亜陽君の顔付きが今までにないくらい険しくて、ここまで怒っている亜陽君は、高校生になってから初めて見たかもしれない。

「ううん、何でもないよ。ちょっと早くに目が覚めちゃって気分転換しようかなって……」

とりあえず、何か上手い言い訳があるか考えてみたけど、どれも言い案が浮かばず、結局は強引に押し通すことにした。

「気分転換?もしかして何かあった?今日の美月少し元気ないし」

すると、今度はとても心配そうな顔付きへと変わり、亜陽君に言われた言葉がぐさりと私の胸を突き刺してくる。


何かあったって……。

昨日亜陽君は知らない女性と、隠れてあんな如何わしいことをしていたのに。

そのせいで、私の心がボロボロに崩れてしまったのに。

何で平然とそんな事が言えるの?


そう喉まで出かかったところで、私はごくりと唾を飲み込む。

今ここでする話でもないし、その後の自分の行動も振り返りたくはないので、私は何も触れずに無理矢理笑顔を作った。

「ありがとう、大丈夫だよ。……あ、そうだ。私みんなの分の腕章取りに行って来るから亜陽君は鞄置きに行ってきなよ」

兎にも角にも、これ以上彼の顔を見ることが出来ず、私は何とか逃げ道を編み出すと、亜陽君の返事を待たずに足早にこの場を去った。
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