麗しの狂者たち【改稿版】
先ずは家に帰ったら、ごめんなさいと謝ろう。
そして、改めて自分の将来について真剣に両親と話そうと思う。
あの時は何も答えが見出せなかったけど、八神君に励ましてもらったおかげで、これまで諦めていた可能性にようやく目を向けられそうな気がする。
そして、今度こそ、自分の意見をしっかりと伝えようと。
マイナス思考をどんどん外に追い出し、心を奮い立たせていた時だった。
「ママー早く!早くしないと、ケーキなくなっちゃうよ!」
「分かってるから、走らないでー」
突如背後から聞こえてきた活発な男の子の声と、焦りの色が見える女性の声。
振り返ると、四、五歳くらいの小さな子供が後ろにいる母親を催促しながら、ある方向を指差している。
「この前行ったらお芋のケーキ食べれなかったじゃん!だから、早く行こう!」
その先にあるのは、うちが展開する和食屋さんで最近販売し始めた、紅はるかチーズケーキの広告。
お芋好きの父親がずっと前から考案していたもので、自らも製作に参加し作り上げた、和と洋が上手く融合された自慢の一品。
それが功をなしたのか。
販売当初から人気は鰻登りで、今でも売り切れが続出しているんだとか。
そんな旋風を巻き起こすような商品を開発する父親は、何だかんだ言ってもやはり尊敬に値する人で。
私もいつか人を喜ばせるものを作ってみたいと、当時はそんなことをふと思ったりもした。