麗しの狂者たち【改稿版】
「あ、美月。そろそろ時間だから行こう」

すると、会場脇で待機していた私達のもとに紺色タキシード姿の亜陽君が現れ、初めて見る装いに思わず目を奪われてしまう。

ハーフ顔というだけあり、蝶ネクタイがよく似合っていて、いけないと思いながらもつい視線が行ってしまうため、なるべく直視しないように心掛けた。


それから、私達は式典の司会進行と挨拶のために司会台へと向かう。

そこで改めて辺りを見渡すと、数多くの来賓者とほぼ全学年が揃っているので、これだけの人数の前に立つのは、生徒会選挙以来かもしれない。 

人前に立つのはそこまで苦ではないけど、これだけ注目されるとやっぱり緊張で体が少し震えてくる。

一方、亜陽君は堂々とした立ち振る舞いで流れるように司会進行という重役を完璧にこなし、同じ経営者を目指す者として、まるで力の差を見せつけられているようで少し気後れしてしまう。


それから、来賓者と学園長の挨拶が終わり、最後に生徒代表挨拶をするため、亜陽君はマイクを手に持ち、ステージ台へと上がった。


「三年生の皆様。ご卒業おめでとうございます。入学から今日に至るまで、振り返ればあっという間に時は過ぎ去っていったと思います。おそらく、この先々もっとその早さを身に沁みて感じることになるでしょう。なので、その時々に出来ることをこれからも全力で励んでください。時間は元に戻せません。後悔しないように、今を自分のために精一杯生きてください。皆さんの可能性を制約するものなんて、この世には存在しません。だから、自由であることを忘れず、これからも思うがままに己の道を歩み、自分のための幸せな人生を掴んでください。以上で在校生代表の挨拶とさせて頂きます」



そして、亜陽君の贈る言葉が終わった途端、盛大な拍手が会場中に響き渡る。

それは、これまでの挨拶の中で一番の音量かもしれない。 

それだけ、この場にいた人達の心に亜陽君の言葉は響いたのだろう。


勿論私の心にも。そして、亜陽君自信にも。


それを確かめ合うように、亜陽君の視線がこちらへと向けられ、私は応えるように小さく微笑んでから無言で首を縦に振った。

こうして、全ての挨拶が終わり、最後に乾杯の音頭を取るため、副会長である私は亜陽君からマイクを受け取る。

「それでは、これから我が校初。記念すべき第一回目の社交パーティーを開催します。皆さん、このひと時が特別なものとなるように盛大に楽しんでください。乾杯!」

それから、手に持っていたグラスを掲げると、それに続いて会場中から活気溢れる乾杯の言葉が響き、本格的に社交パーティーの幕が開いたのだった。
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