麗しの狂者たち【改稿版】
__パーティーが始まってから早くも一時間が経過。
私は時折時計を気にしては、会場の入り口に目を向け、彼を今か今かと待ち侘びる。
しかし、一向に音沙汰なく時間が刻々と過ぎて行き、このままだと来夏君が到着する前に終わってしまうのではないかと。そんな不安までよぎってきた。
これまで生徒会メンバーと過ごしていたけど、ちょっと目を離した隙に亜陽君のパートナー争いが女子の中で始まり、いつの間にか姿を見失ってしまった。
それからは渚ちゃん達と一緒に行動しようとも思ったけど、二人の仲をこれ以上邪魔したくはないので、私は一旦外の空気を吸いに行くため会場を後にする。
その途中で目にした白浜さんの姿。
彼女らしい露出高めのデザインと、丈が短い真っ黒なタイトドレスは会場内で一際目立っていた。
どうやら噂だと、亜陽君と私が別れて直ぐ彼に告白したらしいけど、即断られたんだとか。
結局亜陽君は最後まで白浜さんを駒としか見ていなかったらしく、彼女には散々酷いことをされてきたけど、ここまでくると何だか同情してしまう。
そのうち、いつか誰かに刺されるのではと。
改めて亜陽君の素行が心配になったところで、私は一息入れるために中庭に備え付けられたベンチに腰を掛けて空を仰ぐ。
真冬の時期は過ぎたけど、やはり夜はまだ冷え込んでいて、露出している肌に冷たい風が当たる度に、体が小さく震える。
ここは上着を取りに行こうかとも思ったけど、戻るのも面倒くさいので、私は暫く身を縮こませながら呆然と星を眺めていた。
「こんな所で何してんだよ?風邪ひきたいのか?」
その時、背後から突然聞こえてきた来夏君の声。
私は咄嗟に振り向いた瞬間、肩に大きな黒いコートがかけられ、冷えた体に彼の温もりが染み渡ってくる。
「来夏君遅い。ずっと待ってたんだから」
数時間ぶりの再会に気持ちが舞い上がるも、大分待たされたせいで、第一声はつい不満が漏れてしまった。
「悪いな。急遽外せない用事が出来て」
そう言うと、黒いスーツ姿の来書君はズボンのポケットに手を突っ込んだまま乱暴に私の隣に座る。
彼のスーツ姿を見るのはこれで二回目だけど、あの時は赤髪スタイルだったので、今回の黒髪バージョンは更に大人っぽさが増し、鼓動が徐々に早くなっていく。
「急遽外せない用事って?何かあったの?」
本当は深く詮索するつもりはなかったけど、彼にとっては珍しい話で、私は少し心配になり首を傾げた。
「いや。ただ、これを取りに行っただけ」
すると、そんな私の不安をよそに。
来夏君は何食わぬ顔で、ポケットから黒い掌サイズの小さな箱を取り出してきた。